ウレタン塗料の基礎知識とウレタン塗装品の取り扱い方法

メンテナンスフリーとされるウレタン塗装の家具や食器ですが、使い方を誤るとその強固な塗膜も傷んでしまったり、光沢が変質してしまったりします。ウレタン塗装の仕組み、ラッカーやオイルとの違い、ウレタン塗装品を長持ちさせる取り扱い方のコツを、木材塗装の技術指導に長年たずさわってきた専門家にお聞きしました。

文: 長澤良一(木材塗装研究会 副会長)

目次:(1)ウレタン塗装の歴史/(2)ウレタン塗装品の取り扱い方法

ウレタン塗装品のお手入れ方法

お手入れの際は塗膜の光沢に気を配る必要があります。最近の家具業界では、ユーザーのナチュラル志向を受けて「白木仕上げ」が流行しています。これは塗膜の光沢を人工的に消したもので、塗装してあるものの、まるで無塗装(白木)のように見せる技法です。

ウレタン塗装(ラッカーも同様)の場合、光沢はコントロールでき、「ツヤあり(クリヤー仕上げ)」にも「ツヤ消し(フラットまたはマット仕上げ)」にもできます。ツヤ消しにするには、塗料製造の際にツヤ消し剤(10ミクロン単位の粒子)を混合します。つまり、ツヤ消し塗料とは、塗膜の表面にツヤ消し剤が並んで乱反射するので、ツヤが消えたように見えるというわけです。

こういったツヤ消し仕上げの家具は(白木仕上げ以外も含め)は、メンテナンスの方法によっては本来のマットな質感が消えて、必要以上に光沢が出てきてしまうことがあるので注意が必要です。

木製品業界のお手入れマニュアルによると、まず指紋など手油や食品などによる汚れのお掃除の際は、汚れの程度によって、(1)柔らかい乾いた布で拭く。(2)水もの・汁ものなどは早目に拭き取る。(3)油ものはぬるま湯で中性洗剤を1~5%に薄めたもので拭き取る。と書いてあります。全くその通りなのですが、そのほかにも注意点がいくつかあります。

  • ・布巾はなるべくやわらかい素材のもの、できればメガネ拭きのような超極細繊維のクロスを使用する。木の器や弁当箱は自然乾燥でOK。
  • ・拭き取る際は、表面を強くゴシゴシとこすらない。塗面に並んだツヤ消し剤がこすられ、ツヤ消し効果が消失してしまう可能性があるため。メラミンスポンジも同様の理由で使用は控える。
  • ・木の器や弁当箱などで、スポンジタワシを使う場合はやわらかい部分で洗うこと。間違っても裏面の研磨剤入りの部分でこすらないこと。また、弱アルカリ性洗剤ではなく中性洗剤を使用する。
  • ・熱々のやかんや鍋をテーブルに直接置かない。塗膜が白化したり、ツヤ消し効果がなくなる可能性があるため。
  • ・アルコール除菌剤(スプレータイプ・エタノール70~80%のもの)は、塗膜が白化したり、ツヤ消し効果がなくなる可能性があるため使用は控える。どうしても使用しなくてはならない場合は、やらかい布に少量を含ませてやさしく拭き取る。(1日に何度もアルコール消毒をすると塗膜が劣化するので要注意)

ていねい扱えば、20年、30年と長持ちするウレタン塗装品ですが、お手入れ方法を誤ると劣化し、トラブルになることがあります。実際に起きた事例を紹介します。

あるご家庭で、テーブル面の塗膜が使用しているうちに軟化してきたのです。そして、輪ジミなどのダメージが起きるようになってしまいました。

原因は、食後の汚れたテーブル面を掃除するのに使用した洗剤でした。どこのご家庭にもある食器洗浄用の合成洗剤です。そして、掃除の方法にも問題がありました。洗剤を薄めずに原液のままで布巾に含ませ、しかも毎日のように拭いていたのです。

合成洗剤の主成分は「界面活性剤」という物質です。この物質の役目は、水と油など混ざらないものの間に入って融合させることで、汚れ落とし効果を生み出します。さらに強力な浸透作用もあります。この物質がウレタンの塗膜分子を劣化させてしまったのです。

ついでにいうと、しつこい油分を落とすために、アルカリ性薬剤を界面活性剤と混合した合成洗剤(弱アルカリ性洗剤)がありますが、これはもっとひどいダメージを塗膜に与えますので使用は厳禁です。取扱説明書に「中性洗剤を薄めて拭き取る(または洗う)」とあるのは、このようなトラブルを避けるためだとご理解ください。

ウレタン塗装品の取り扱い上の注意

一般的にウレタン塗装の家具は、強靭な塗膜があるゆえにキズにも強いと思われがちです。しかし、木製品の場合は金属やプラスチックとは違い、素材自体がやわらかいため、取り扱いにはいろいろと注意が必要です。

ウレタン塗装の家具、とりわけテーブルに対する疑問で多いのは「塗膜が固いのにキズがつくのはなぜか」というものです。この場合は2つのケースが考えられます。

ひとつは「陶磁器の高台などを引きずった場合にできるひっかきキズ」です。ひっかきキズはウレタンの塗膜より硬い器物がこすれてできます。これを防ぐためには、茶托やコースターを使うことが最も有効です。

もうひとつは「金属製品などを落としたときにできる打ちキズ」です。打ちキズではウレタンの塗膜が割れることはまずありませんが、凹んでしまいます。ウレタンの塗膜の厚みは、標準工程で50ミクロン(0.05ミリ)~100ミクロン(0.1ミリ)くらいとされています。この塗膜の厚さでは残念ながら木部の凹みを防ぐことはできません。凹みの具合は木材の固さも影響するため、テーブルを選ぶ際には比較的堅い広葉樹材にすることで少しは防げる可能性があります。

ウレタン塗装の食器・弁当箱の取り扱いでは、食器洗いの最中に鍋や大皿などの固い物をぶつけないよう注意してください。「熱湯や揚げたてのフライなどを木の器に入れても大丈夫か」という質問を時折いただきますが、問題ありません。ウレタンの塗膜は瞬間的に120~130度くらいまでの熱に耐えることが試験で確認されています。しかしながら、長時間にわたって高温にさらされると、木地(木部)が反ったり、割れたりすることがあるので、食洗機や食器乾燥機などで使用は控えるようにしてください。

ウレタン塗装の食器に熱々のお湯を入れると、溶剤臭がするという声も時々耳にします。これは完全に乾燥していない溶剤成分が、熱によって促進されて発生するためです。溶剤成分は基本的に揮発しますので、時間の経過やくり返し使用することで臭気はなくなります。臭気が気になるようであれば、使用前に加温するか、お湯と中性洗剤で十分に洗浄してから使用するとよいでしょう。

ウレタン塗装品の修理方法

ウレタン塗装品は、塗膜が固く丈夫であるがゆえに、一度ダメージを受けてしまうと、ユーザー自身で元通りに修復するのはなかなか難しいものです。

ウレタンの塗膜は、シンナー(塗装の際に塗料を溶かす溶剤)にも再溶解しない反応硬化塗膜であることがその理由です。ラッカーの塗膜のようにシンナーで再溶解することができれば、比較的容易に修復が可能なのですが、シンナーで溶かすことができなければ、修復は簡単にはいきません。

シンナーで再溶解できなくても、オイルの塗膜のように含浸性の塗料であればサンドペーパー(紙やすり)で「研磨ハガシ」が容易できますが、ウレタンの塗膜は硬く厚みがあるので、研磨ハガシには電動式のサンダーがどうしても必要となります。

サンダーによる研磨ハガシは平面状態の塗膜面であれば容易ですが、椅子などの複雑な形状の製品の場合は対応できません。この場合は剥離剤(ウレタン樹脂を軟化させる薬剤)を使用することになり、これは人体に有害なため、換気設備の整った工場でなければできません。

以上のことからウレタン塗装品の修復は難しいといわざるを得ません。ただし、小さなキズや凹みであれば、ユーザー自身で直せる場合があります。

ホームセンターの塗料売り場に行くと、さまざまな修復用材料が売られています。塗装品の現状に合わせた材料として、透明(クリヤー)タイプであれば、シリコン樹脂コーキング剤、エポキシ樹脂補修剤、瞬間接着剤などがあります。着色タイプであれば、色付きの補修用パテ剤などがあります。これらをうまく使うと、小さなキズや凹みを目立たなくすることができます。

自分でやってみてうまくいかなかった場合や、大きな塗膜の剥がれがある場合、あるいは長年使用して全体的に塗膜が摩耗してきた場合は、やはりプロに依頼するしかありません。プロというのはもちろん塗装業者のことですが、どこでもよいというわけではありません。

同じ塗装でも木工塗装は他の業界(金属塗装・プラスチック塗装・自動車鈑金塗装・建築塗装など)のやり方と全く違うため、木工専門の業者でなければいけません。できれば経験はもちろん、専門知識と技能に優れ、国家資格を取得した木工塗装技能士さんのいるところが最適です。

一番安心なのは、購入した家具店を通じてメーカーで再塗装してもらうことです。しかし、海外で大量生産しているメーカーなどは、修理を受け付けてくれない場合もあるでしょう。そういった場合は、家具専門の修理工房に相談してみましょう。ウレタン塗装の食器の場合は修理できる工房が限られているので、購入した店舗にまず相談してみてください。

近くに修理工房がなければ、手作り家具工房に相談してみる方法もあります。工房内に塗装場を持っているところが最適で、このようなところは、古い家具を再生修理してもらいたい場合にはもってこいです。まっとうな木工職人であれば、きっと耳を傾けてくれることでしょう。

著者の紹介

長澤良一

長澤良一(ながさわ・りょういち)

木材塗装研究会 副会長

1946年神奈川県生まれ。木工塗装一級技能士。祖父は木場の木挽き職人。芝浦工業大学工業学科卒業。1968年に大起ペイント株式会社(現・ユニオンペイント)に入社、技術部木工塗料開発に配属される。家具用ステイン、ラッカー、ウレタン等の製品開発を担当。その後、全国の家具メーカーを対象に塗装技術の指導に従事。1994〜97年までタイの合弁会社の責任者として海外赴任。1999年に同社を退職。同年キャピタルペイント株式会社・東京営業所所長に就任。木材塗装研究会運営委員。全国巨樹・巨木林の会理事。厚生労働省中央技能検定委員。

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