ウレタン塗料の基礎知識とウレタン塗装品の取り扱い方法

メンテナンスフリーとされるウレタン塗装の家具や食器ですが、使い方を誤るとその強固な塗膜も傷んでしまったり、光沢が変質してしまったりします。ウレタン塗装の仕組み、ラッカーやオイルとの違い、ウレタン塗装品を長持ちさせる取り扱い方のコツを、木材塗装の技術指導に長年たずさわってきた専門家にお聞きしました。

文: 長澤良一(木材塗装研究会 副会長)

ウレタン塗装の器

目次:(1)ウレタン塗装の歴史/(2)ウレタン塗装品の取り扱い方法

ウレタン塗装の歴史

まず、ウレタンという名称ですが、正式には「ポリウレタン樹脂」といいます。もともとこの物質は自然界に存在せず、化学反応によって生み出されたものです。ポリウレタン樹脂製品の用途は多岐にわたっており、自動車部品から住宅の断熱材やクッション、合皮などがあります。塗料はその一分野に過ぎません。

ウレタンという物質は、19世紀中頃にヨーロッパで開発されていました。その後、時を経て1937年にドイツでウレタン繊維として実用化されています。塗料としては、大戦中にドイツのバイエル社で飛行機用に開発されました。これが後に「D・Dラッカー」と呼ばれる革命的な製品となり、世界中に広まりました。戦後の日本でも木工家具産業の発展とともに多用されるようになりました。

そして現在、木工製品、特に国内で工場生産されているテーブルなどの家具は、そのほとんどにウレタン塗料が使用されているといっても過言ではありません。それは日本塗料工業会所属の木工塗料メーカーの製品出荷量(シンナーを除く全製品の半分以上をウレタン塗料が占める)を見ると明らかです。

なぜウレタンだけがこれほど多用されるのでしょうか。それを理解するために、まず初めに木工用塗料と塗装の歴史を見てみましょう。

日本は「木の文化」と言われているように、私たちは古来より木と共に生活してきました。その中で木材塗装のため、漆・油・柿渋などが長い時代を経て使用されてきました。それが劇的に変化したのが明治維新の頃です。

日本人が初めて洋塗料を使用したのは、江戸時代末期に米国よりペリー特使が来日し、その翌年の安政元年に貿易交渉を行う建物に塗られた油性塗料とされています。その後明治に入り、輸入品から国産化(日本ペイントの前身)となり、塗料工業が始まりました(『日本塗料工業会広報誌』による)。

この頃の木工塗料の代表は、和塗料では「漆」であり、洋塗料は「油性ワニス」および「セラックニス」でした。このうち「漆」は最高級家具用であり、「油性ワニス」は乾燥が遅いことから建築木部に多用され、家具の方の主役はセラックニスとなり、これは大正まで続いたようです。ちなみにワニスやニスは同一用語で、“VARNISH”を語源とする顔料の入らない透明塗料のことを指します。

昭和元年には、それまで米国から輸入されていた「ラッカー」が国産化され、続いてスプレー塗装技術が導入され最盛期を迎えました。ラッカーは乾燥が早い上に仕上り感がよく、さらに耐久性にも優れていることから、セラックニスに代わり主役となりました。

戦後しばらくの間は「ラッカー」と「セラックニス」が幅を利かせていましたが、その後に来る高度経済成長時代の石油化学工業の発展により、塗料業界にふたたび劇的な変化が訪れます。

昭和30~40年代にかけて合成樹脂塗料が国産化されるようになり、アミノアルキド、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、UV(紫外線硬化)などの物質が次々と開発されました。しかし時代の流れの中で、これらの塗料の中で淘汰されていくものもいくつかありました。

こうした中で、ウレタン塗料だけは、登場した時から現在にいたるまで、木工塗料の中で不動の地位を占めています。この理由をひと言でいうと、他の塗料と比較して何よりも「バランスがよい」ということです。塗装の目的である「保護(塗膜性能)」と「美観(美しさ)」、および「経済性(コスト)」「扱いやすさ」の総合判定が最優秀であるということでしょう。

ウレタン塗装の仕組み

一般的にウレタンと称するものの正式名称は「ポリウレタン樹脂」です。もともとこの物質は自然界に存在せず、化学反応によって生み出されたものです。ポリウレタン樹脂製品の用途は広範囲にわたっており、自動車の部品から住宅の断熱材やクッション・合皮などがあり、塗料は一分野に過ぎません。

塗料分野としての木製品用のウレタン塗料は現在、3タイプが製品化されています。

  • (1)1液型湿気硬化性ポリウレタン樹脂塗料
  • (2)1液型油変性ポリウレタン樹脂塗料
  • (3)2液型ポリウレタン樹脂塗料

一般的にウレタンといえば、(3)の2液型ポリウレタン樹脂塗料を指し、前述のように木製品用塗料の中では最も多用されています。「2液型」とは、主剤と硬化剤の2つを混合して使用することに由来しまし、使用時はさらにウレタンシンナーで薄めてから塗装します。

硬化乾燥の仕組みは、主剤のポリオールと硬化剤のポリイソシアネートの重合反応によりウレタン樹脂ができることで塗膜となります。木製品の仕上げにはツヤあり(クリヤー)とツヤ消し(フラットまたはマット)がありますが、これは上塗り塗料のことです。

塗装の仕組みは、木製品の木地(生地・素地ともいう)に浸透して「木地固め」するための下塗り塗料があり、さらに塗膜を厚く平滑にする中塗りがあります。これに上塗りが加わって標準塗装工程となります。そして、木材本来の質感を損なわずにさらに付加価値を付けるための「目止め剤」や「着色剤(ステイン)」などを組み合わせ、目的ごとに塗装の仕様を作り上げていくのです。この仕組みはウレタンに限らず、造膜タイプの塗料に共通であり、ラッカーも全く同様です。

なお、ウレタンの乾燥時間(作業日数)は、一般的標準塗装工程で家具の場合、3~6日位ですが、高級な鏡面磨き仕上げ(ピアノ塗装など)ですと、3~4週間は必要となります。

ウレタンとラッカーとの違い

一般的にラッカーと称するものの正式名称は「ニトロセルロースラッカー(別名・硝化綿樹脂塗料)」といいます。

木材を含む植物の主成分であるセルロースを原料にしており、ここが化学合成品の申し子であるウレタン塗料との大きな違いなのです。前述のごとく、過去にラッカーが主役の時代もありましたが、現在はその座をウレタン塗料に譲っています。

ところが今でも木製品塗装業界では、ラッカーが「使い勝手がよい」ということから、一部では根強い人気があることも事実です。そして、実際に木製品に塗装されたラッカーとウレタン塗料の塗装面(仕上がり状態)を比較してみた場合、その違いを明確に判定するのはプロでも難しいことも事実です。

このように木製品には相性がよさそうなラッカーが、ウレタン塗料に主役の座を奪われてしまったのはなぜでしょうか。この理由を理解するには、ラッカーの硬化乾燥の仕組みがウレタンとは全く違うということを知る必要があります。

ウレタンは、1液型も2液型も同様に“ウレタン樹脂を生み出すために化学反応を起こす”タイプです。ところが、ラッカーはこの化学反応を必要としないのです。ラッカー中のシンナーが蒸発するだけで硬化乾燥する「溶剤揮発型」タイプなのです。

わかりやすくいうと、ウレタン塗料もシンナーで薄めて塗装しますが、シンナー蒸発後の化学反応により硬化塗膜になった後はシンナーには再溶解せず硬く耐久性があります。それに対してラッカーは、せっかく硬化した塗膜にシンナーをかけると、再溶解してしまうのです。ラッカー塗装のテーブルにお客様がマニキュア除光液(シンナーの一種)をこぼしてしまい、塗装面が溶けてしまった事例も実際にあります。

また、ウレタン塗装と比べて、ラッカーは塗膜硬度がやわらかいので(鉛筆硬度でウレタンは2H、ラッカーはHB)、傷つきやすく、耐熱性も弱く、熱々の湯呑みなどをラッカー塗装のテーブルに直接置くと、輪じみができるなどの欠点があります。このようなことから、ラッカー塗装は木製品市場において不評を買ってしまいました。

しかし、ラッカーの名誉のためにいうと、これらの欠点はホテルやレストランで使う業務用テーブルやカウンターなどの木製品ではデメリットになりますが、一般的なインテリア空間では扱い方ひとつでクレームにならないものばかりかと思います。事実、木製家具の塗装仕上げにこだわりのある人にとって、感性的な価値(柔らかい表情やしっとりとした塗膜感など)は、ウレタンよりもラッカーが上であり、大切に使うことにより愛着や味わいが増す、との評価されるケースもあります。筆者の経験でも、自宅にある北海道民芸木工の家具はラッカー塗装のものですが、40年以上経過した現在も問題なく使用できています。

ラッカーがシンナーで再溶解することは欠点でもありますが、塗り直しの際はメリットになります。シンナーで古い塗膜が容易にはがせるので、メンテナンスが容易なのです。そのため、欧米からの輸入アンティーク家具専門店などでは、修理の際はいまでも「ラッカー」や「セラックニス」が使用されています。

ウレタン塗装とオイル仕上げの違い

一般的にオイルと称するものの正式名称は「オイルフィニッシュ用塗料」であり、油性ワニス塗料の一種に分類されます。オイルは1液型塗料の代表であり、硬化剤を混ぜる手間もいらず、手軽に塗装ができるので、木工作家や日曜大工愛好家にも人気のある塗料です。

筆者も若い頃、木質感が素晴らしいジョージ・ナカシマのウォルナット家具(オイルフィニッシュ)に憧れて、愛用の木製カバンに塗装したことがあり、時々メンテナンスをして今でも愛用しています。

ところで1液型塗料というと、前述のラッカーと同じですが、硬化乾燥の速さがまるで違います。ラッカーは速乾タイプの代表ですが、オイルは遅乾タイプの代表なのです。

ラッカーは乾きが早すぎてスプレー吹付でないときれいに塗れないため、プロ向きです。これはウレタンも同様です。その点でオイルはすぐに乾かないため、素人でも塗装がしやすいというメリットがあります。

この理由はオイルの硬化乾燥の仕組みにあります。オイルは1液型塗料といってもラッカーのような「溶剤揮発型」ではなく、ウレタンと同様に「化学反応型(正式には空気中の酸素を取り入れる酸化重合反応型)なのです。ただし、この反応はゆっくりと進行するのが特徴であり、そのため塗膜の乾燥も遅くなるというわけです。

オイルの原料は、古来から使用されてきた植物油であり今も同じです。乾性油(亜麻仁油・荏油・桐油など)か半乾性油(ひまわり油・紅花油・大豆油など)を使用します。

抽出したばかりの油は乾燥が遅く、何か月経ってもベタつくため、そのままでは塗料として使えません。そこで塗料化のために加熱処理をしたり、乾燥促進のための酸化反応触媒(有機金属塩類=一般に金属ドライヤー)を配合したりするのです。

このようにして塗料化したオイルの完全硬化乾燥(本来の塗膜性能になるまで)はどのくらいと思われるでしょうか。答えは1か月以上です。ずい分長いなと思われるでしょうが、漆にしても何か月もかかるわけですから、酸化重合反応とはそのようなものとご承知ください。

さて、本題のウレタンとオイルの違いですが、そのひとつはもうお分かりのように、硬化反応の仕組みが全く違うことに由来する塗膜性能の差です。

ウレタン結合という強力な化学構造を持つ塗膜は強靭であり、熱に強く、食品などの汚れにも強いという全てにおいてオイルを上回ります。そしてこの塗膜性能だけでなく、決定的なのが「塗膜の厚さ」にあります。これは言い方を変えると塗装のやり方の違いです。

ウレタンは「下塗り・中塗り・上塗り」という具合に塗り重ねていく「造膜システム(厚塗り)」が主流です。ところがオイルは、木材中に浸透させてから材面に残ったものは拭き取って仕上げる「含浸システム」が主流です。従って、木材面に塗膜はないのも同然です。

もともと塗膜の耐久性に差があるところにこれでは、同じレベルでの話にはならず、「オイルの塗膜はウレタン塗装に比べて弱い」などというのは、本来ナンセンスな話なのです。

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