「裏作工芸展を〜グループ モノ・モノの企て〜」

モノ・モノ創設者の秋岡芳夫は、暮らしや木工に関する多数の著作を残しています。本コーナーでは秋岡芳夫の本の中から、現代に通じる提言や言葉を掘り起こし、ウェブ上に公開しています。本稿ではモノ・モノで取り扱っている裏作工芸の品物を紹介するとともに、工業化社会での工芸はどうあるべきか考察しています。

文: 秋岡芳夫(工業デザイナー)

こうした展覧会でモノ・モノがユーザーに訴えつづけたのは、「愛用・誂え」であった。メーカーに訴えたのは、「1品ものも、街でも作って欲しい」であった。そしてこんどは「工芸を裏作でやりませんか」の展覧会を開く計画だ。モノ・モノのみんなで気づいたからである。サロンで話し合ってやっぱりそうだと考えたからである。

「美しいモノは楽しい労作からしかうまれないと。楽しみの工芸は、職業としては成立つまいと」

日田の時さんは役人だが、彼が「役人の裏作」で作るサラダボールは実に美しい。釜石の鉄工場の守衛さんをしてる菊池さんが人生の楽しみに作っている大根下しは評判だ。秋山郷の政一じいさんがコツコツ、むかし「山の裏作」で習い覚えた腕で彫る栃のこね鉢は注文においつけない。ぼくに津軽の山男が「山の裏作」技術を編んでくれた山葡萄の蔓のカバンはひどくみんなに欲しがられる。

モノ・モノの部屋で作っている栃の一枚板のテーブルは岩泉の工藤くんが作ってくれたが、こんなテーブルが欲しいとみんなが注文する。工藤さんは親子で製材業をやっていたが、大きな木を小さく切り刻んでは木が可哀そうだと、「製材業の裏作」で純木家具をつくり始めた。その机のまわりにならんでる掛け心地のいい椅子は去年、仙台の「日本人のイス展」用に注文で旭川の家具メーカーに作ってもらったもの。いい掛け心地だと評判だが、この椅子、インテリアセンターと言うメーカーが採算を無視してくれた言わば「企業の裏作」もの。

ついこの間、新潟の津南町のある森林組合に行って来た。森林組合の人達が国からの森林改善対策のお金で立派な工場をつくっていた。木材乾燥器やロクロなどいろいろ木工機がずらりと揃っていて、これから「林業の裏作」に工芸品を創り始めようと言うところだった。いい工芸が成り立つための要素は4つ、「時間のゆとり」「資金のゆとり」これで喰わないでもいいと言う「くらしのゆとり」それに楽しんで作ろうと言う「気持のゆとり」。

豪雪地帯だから津南の町の人達には、冬に時間のゆとりがある。一応林業で食べてるからくらしにもゆとりがある。あとは工芸を楽しむことを覚えればいいわけだ。津南でいい工芸品が林業の裏作で創れるようになったら、計画中の「裏作のすすめ展」に出してもらおう。

岩手の県北の大野村は文字通り寒村だ。冬は村中で出稼いでいる。裏作に大豆を播いたら全部山鳩が食べてしまった。この村でもいま津南と同じような山村改善事業が進んでいて村で木工場を建てた。椀素地を挽こうかと目下計画中だが、ゆくゆくは村の「冬の裏作」で漆器を創りたいと言う。

京都に平安陶苑と言う立派な製陶会社がある。ここの社長の高島さんは取引先のデパートに納めている会社製品の出来がどうも気にくわぬ。こんなまあまあ陶器づくりで一生終わりたくない。好きに創ろうと、社長自ら土瓶なんぞを挽いて焼いて絵までつけている。高島さんの土瓶は「社長の裏作」工芸品だ。

モノ・モノの「裏作工芸展」には、この高島社長の土瓶も、大野村の冬の漆器も、旭川の家具会社の裏作椅子も、岩泉の製材所の裏作木製家具も、津軽の山の男の裏作の山葡萄蔓で編んだカバンも。そうだ松橋村の賢次郎じいさんのにぎょうの籠も、あれも人生の裏作工芸だから一緒にならべよう。役人の裏作ものも沢山ならべよう。時さんのお盆、珠ちゃんの竹の籠。秋山の政一じいさんの栃の木鉢もならべよう。

旭川で楢の小鳩をつくっている久さんのいろいろな動物たちもならべて久さんにこう頼む。鳩づくりを「表作」にしないで下さいね。裏作で楽しみに作りつづけて下さいねと。

工芸は表作でやるのがいいのか、裏作がいいのか。見てもらいたいからモノ・モノは裏作工芸展をいま準備中なのである。

出典元・著作の紹介

暮らしのリ・デザイン

『暮しのリ・デザイン』

玉川大学出版部 | 単行本 | 1980

これまで取り上げてきた道具や話題を生活という尺度で測り直すと、また別の物語や提案が出てくるのが秋岡芳夫の発想のすごさだ。「国鉄が捨てたD51型蒸気機関車(愛称:デゴイチ)を拾って、薪を焚いてロクロや帯鋸じゃんじゃん回して木工やって、過疎の地の村おこしやろう」という提案にはじまって、話題はエネルギー問題から包丁の柄のデザインまで縦横無尽に広がる。裏作工芸の発想もこのあたりからはじまった。
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※掲載箇所:「暮しのリ・デザイン」 p191~p198)

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