時松辰夫著『どんな木も生かす山村クラフト』出版のお知らせ

木工を通じた地域活性に長年取り組んできた、時松辰夫さんの著作が9月10日に農文協から発売されます。全国33ヵ所、のべ400人以上に、雑木を活用する木工技術と山村クラフトの理念を伝えてきた著者の集大成です。

山村クラフト

書籍詳細

2020年はモノ・モノ創設50年、秋岡芳夫生誕100年となる節目の年です。モノ・モノでは50周年記念プロジェクトとして関連書籍の刊行を進めています。

本書は秋岡芳夫のパートナーとして、木工を通じた地域活性に取り組んできた時松辰夫氏の前著『山村クラフトのすすめ』を全面改訂したものです。全国25の自治体で著者が指導し、地域の人々と共に生み出した木工クラフト作品約60点をカラー写真で収録しました。身近な雑木を木工ろくろで加工し、副業や地域の活性化に生かす「山村クラフト」の考え方とその技法を集大成した本書は、木工や林業を通じた地域活性に興味ある方のみならず、木工職人を目指す人、地域の産業振興を担う行政マンにとっても必携の内容となっています。

推薦の言葉

ものづくりがますます機械化し、経済がグローバル化する中で、木工技術者に求められる役割は大きく変わりつつあります。地域の人々に自然に親しむきっかけを提供すること。木で物を作る喜びや使う楽しみを伝えること。地域の資源を活かすこと。それを実に40年も前から全国各地の現場で実践してきたのが、時松辰夫さんなのです。

時松さんはタンスで有名な福岡県大川市の木工所で家具職人として働いた後、大分県日田産業工芸試験所の研究員となり、器を作る木工ろくろ(木工旋盤)の技術を身に着けました。日田では地場産品開発に携わり、さらに秋岡芳夫さんとの出会いを機に活動の舞台を全国に広げていきました。

タイトルの「どんな木も生かす」という言葉、これは木工を学んだことがある人なら分かりますが、なかなか言えない言葉です。大きくて真っすぐで使いやすい木も中にはありますが、実際には細かったり、曲がっていたり、乾かすと大きく反ったりして、ものづくりには使いづらい木がほとんどなのです。だから本書で紹介される作品を見ると「この木がこんな製品になるなんて!」と驚くことばかり。豊かなアイデアが確かな技術に裏打ちされています。

そのアイデアや技術を、時松さんは全国の地域活性化のために惜しげもなく提供してきました。今、83歳になった時松さんが、これからの時代の作り手に送る優しく前向きなメッセージが詰まった一冊です。

久津輪雅(岐阜県立森林文化アカデミー教授)

目次

  • 第1章 山村クラフトの歩み
    • 大量生産の時代に「立ち止まった工業デザイナー」秋岡芳夫との出会い
      • 豊かな社会を平和に持続させるのは「工作を楽しむ心」である—秋岡芳夫の「モノ・モノ運動」
      • 地域おこしはオーダーメイドのコミュニティー生産方式で
      • 大野村での「一人一芸の村運動」の実践
      • やっかいもののアテ材に価値を見出した置戸町のうつわ
    • 山村クラフトとは何か
      • 林業や農業との兼業に適した山村クラフト
      • 企業型生産、組合別生産とも違うコミュニティー生産方式
    • 林業の6次産業化を山村クラフトから考える
      • 農山村から次世代の生活価値を発信する
      • 広葉樹を生かす道ー20年後の林業を思う
  • 第2章 地域で生まれた山村クラフト作品
    • 山村クラフトのはじまり 4作品
    • 小径木、曲がり材・廃材・薪用材、樹皮を生かす 13作品
    • 日常の気づきを形にする 7作品
    • 伝統と現代技術の融合   9作品
    • 農林漁家の営みを支援する 3作品
    • 張り合わせの楽しみ 6作品
    • 地域素材をいかす 6作品
    • 竹をいかす   2作品
    • 形状のおもしろさ 4作品
  • 第3章 山村クラフトの技法
    • 木材入手から乾燥・木取りまで
      • 材料をどう入手するか
      • 半割丸太工法でどんな木も100倍の価値を生む
      • 欠かせない木材の乾燥
    • 木工ろくろを活用した山村クラフト
      • 山村クラフトの強い味方「プレポリマー」
      • 安心安全な食器製作ー衛生管理の注意点
      • 山村クラフト製作方法の一例
        • 炒めベラのつくり方
        • 木工ろくろを使わないニマの器のつくり方
  • 第4章 山村クラフトのグランドデザイン
    • 人を育むデザイン
      • 人間の尊厳を守るクラフトマンシップ
      • クラフトマンを育てる
      • デザインのセンスを磨く
      • 地域ストーリーをデザインする
    • 売り方をデザインする
      • 「商品」を生産する
      • 商品の基準を設ける
      • 使い手の希望に触れる展示会を企画する
      • 値段をつける
      • 長く愛用される良質な品格に、改良を惜しむな
    • 地域のデザイン
      • 地域との関係性の中にあるデザイン
      • 地域の環境や素材を生かす
      • まちづくりは「風景」と「おいしいもの」のふたつが大切
      • 森を守る地域経済は国土と地球を守る

一部ページをPDFでご覧いただけます。
はじめに〜もくじ.pdf
第1章見本ページ12-15.pdf
第2章見本ページ72-79.pdf
第3章見本ページ84-85、88-95.pdf
第4章見本ページ120-121,132-135.pdf

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※著者が「山村クラフト」について語るインタビュー記事を公開中

著者プロフィール

時松辰夫さん

時松辰夫(ときまつ・たつお)

1937年大分県九重町生まれ。大分県湯布院町在住。アトリエときデザイン研究所代表。家具職人、大分県日田産業工芸試験所を経て、東北工業大学工業意匠学科(現・産業デザイン学科)・第三生産技術研究室の研究員に招聘される。岩手県大野村(現・洋野町)、北海道置戸町をはじめ全国30ヵ所以上で木工ろくろを活用した地域材の活用法やデザインを指導。第12回国井喜多郎産業工芸賞受賞(1984年)、第47回日本クラフト展大賞受賞(2008年)など受賞歴多数。2021年1月3日83歳で逝去。

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