革の家具とのつき合い方

近年は本物志向のお客様が増え、「これは何の木か。無垢材か合板か」「塗装はオイルか、ウレタンか」等々、お客様のほうから積極的にたずねられるようになりました。一方で、同じ家具でも「革」という素材になると、どういった種類があり、どう選べばよいのか、ご存知ない方がまだまだ多いように感じます。そこで、家具の販売に長年関わってきた森口潔さんに正しい家具の選び方、お手入れの方法をアドバイスしていただきました。

文: 森口 潔(にっぽんプラウド主宰 )

革の家具

長く家具、インテリア商品を販売してきた私には、いくつか素朴な疑問があります。その一つがお客様の革に対する興味関心の低さや誤解が多いということです。

木材の素材や仕上げに関しては、無垢か突板(天然木を薄くスライスしたもの)なのかの違いや、仕上げかオイルなのかウレタン塗装かなどの知識は、随分と浸透し、その品質や価格差も理解されることが多くなったと思います。ですが革の場合は、(家具に限っては)日本での歴史も浅く、そのせいか、お客様が、何がその品質の良し悪しを決め、どう付き合ってゆくのか良いのかが途端に怪しくなり、質問も的を射なくなるという経験を多くしました。

そんな革の家具類に関しての話を、私の経験を通してお伝えしたいと思います。今回、頼りになる知恵袋として老舗皮革メーカー、メルセンの小沼正美さんにいろいろと情報も頂きました。メルセンさんは、家具用レザーの専門商社です。

あらためて家具に使われている革の素材を知ろう

家具に使われている革は牛の皮が多いのですが、これらは仕上げの方法の違いから2種類に大別されます。(もちろん牛の原産地、雌雄の差などのグレードの差はありますがここでは分かり易くするためにそれには触れません)それは、

(1)アニリン仕上げ、セミアニリン仕上げなどのナチュラルレザー
(2)表面にポリウレタン塗装加工をしたもの

の2つです。(1)のナチュラルレザーは、染料のみで加工したアニリン仕上げと染料と顔料で加工したセミアニリン仕上げの非常に繊細なものです。一部の北欧の名作家具やイタリア製のソファなどに使われるもので、かなりの高級品です。透明感があり、色の濃淡も美しく、素材自体はとても柔らかく、全体的にしっとりとした革の持つ自然な趣きをより感じられるものです。北欧の家具にこれらが使われることが多いのは、夏が短く、日照時間が少ないからというのも理由だと考えられます。

(2)は、それに対して表面にポリウレタン塗装を施したものです。ほとんどの家具は、この仕上げが使われています。この加工によって、表面が保護され、(1)のナチュラルレザーに比較して、スレによる劣化も少なくなるのですね。ウレタン塗装は、伸縮性や弾性、柔軟性もあるので革の家具の表面処理に使われることが多いのですね。

加工された革の見本

革は厚化粧をして粗を隠したものが価格が安く、薄化粧で素材感を生かしたもののほうが価格が高い。写真左手に見えるエンボス加工を施した革(ウレタン仕上げ)はグレードが低め。写真右手の自然なシワが入った革(アニリン仕上げ)はグレードが高い。(素材提供:匠工芸)

革の家具は湿気と乾燥に弱い

革の家具の取り扱い上、特に気を付けなければいけないのは、湿気と直射日光、そして極度の乾燥です。これは表面加工の違いによらずすべてに共通します。 特に湿気によるカビの発生は、革にとっては致命傷で、仮に表面のカビをふき取ったとしてもカビの菌糸が内部に残っていて繰り返し発生すると言われています。

また、常に直射日光が当たる場所やエアコンの吹き出し口の真下などの乾燥しやすい場所への設置は避けた方が良いでしょう。 高温多湿な気候の日本では、湿気をコントロールすることは難しいことですが、エアコンや換気によって湿度を調整することが、革の家具と長く付き合ってゆく秘訣のようです。

革の家具のお手入れはどのくらいの頻度が適切?

それでは、日常のお手入れはどのようにするのが良いのでしょうか。

本革製品のメンテナンスは、基本的に専用のクリーナーと保護クリームを使います。購入時には商品の革の仕上げとメンテナンスに関する情報をなるべく販売側から入手して、専用のクリーナーと保護クリームを購入することをお薦めします。成分の違う靴やカバン用のものを使うといつまでもべたべたした状態になることもあるのでご注意を。

順番としては、たまったホコリ等を掃除機のブラシやノズルで慎重に取り除き、乾いた布で乾拭きをします。それでも汚れがひどい場合は、難く絞った濡れタオルで拭いて汚れが落ちやすい状態にしておきます。のちに専用のクリーナーで優しく汚れを取り除き、専用の保護クリームを全体に塗り、ある程度乾いてから乾拭きです。

コーヒーやワインなどをこぼした時も、すぐに水分を拭き取った後に同じような処置をします。また、ハイバックやアーム付きのソファやパーソナルチェアにはこれも大敵のひとの皮脂がつきやすいもの。汚れが目に見えたら、これもクリーナーを使って早めに落としておくことが重要です。

優しく汚れを落として適切な保湿をするのは、お肌のケアに近いものがありますね。ただし、これらのお手入れは、表面がかさついて、汚れが目立つなどの状況に応じて行うことが肝要です。きれい好きが高じて毎日水拭きしたり、アルコール性の除菌スプレーを掛けたり、化学雑巾を使うなどは、カビの発生や表面の塗膜を損傷する可能性が高いので避けなければなりません。

また、革の寿命はどのように見たらよいのかという問いに対しては、これはプロでもなかなか判断しにくいものがあるという事です。なぜなら革素材に対する価値観も多様化していて、ある程度の亀裂やスレ、塗装おちも許容するならば、ヴィンテージレザーとしての価値も見いだせるからです。

一般論として、クリームなどの保湿材を使っても表面がカサカサ、ボロボロとしてきたら寿命として考えるべきなのかもしれません。

まとめ

1.家具の革は大別すると2種類。ほとんどのものは、表面にウレタン塗装したもので、その仕上げをしないものがナチュラルレザーとなります。
2.革にとっての大敵は湿気と紫外線と乾燥です。換気や設置場所に充分気を付けましょう。ハウスダストも溜まると厄介な敵になります。
3.日頃のお手入れは、掃除機でほこりを取って、優しく乾拭き。汚れが見られたら専用のクリーナーと保湿クリームでメンテナンスを。
4.何度も水拭きをしたり、除菌スプレーなどのアルコール、化学雑巾を使う事はNGです。
5.購入は、革に対する知識の豊富な店舗からするのがお薦め。そんなお店から専用のメンテナンスキットを購入時に入手するのがベスト。
6.革は正しく使って、正しくお手入れすると一生ものにもなります。

動物由来の食品を食べず、動物由来の衣類や革製品を拒否して動物からの搾取をしないというヴィーガン思想が欧米中心に興っています。ファッションや自動車の内装などプロダクトに使われる革は、フェイクレザーが増えてきました。ですが、人の暮らしの周りに寄り沿うように本革の存在は、厳然としてありますし、大切なものとして扱われるべきものだと思いますね。

数十万年もの長い間、われわれ人間と動物は関わり合い、何より大切な命を頂きながら、その恵みをありがたく享受してきました。あくまで自然のサイクルを乱さぬように、これからも丁寧に慈しみながら付き合ってゆきたいものです。

著者の紹介

森口 潔(もりぐち・きよし)さん

森口 潔(もりぐち・きよし)

にっぽんプラウド主宰

1954年東京都目黒区生まれ。明治大学経営学部卒業後、スウェーデンのinnovatorブランドを展開していた輸入家具メーカー、村田合同に入社。 1997年リビングデザインセンターOZONEに移籍。2001年までザ・コンランショップの家具担当責任者を務める。2001年~2018年まで日本と北欧の名作家具を扱うにっぽんフォルム、ノルディックフォムのマネジャー職を兼任。雑誌や新聞へインテリア関連の記事を定期的に寄稿する。定年退職後、2021年にインテリアのオンラインショップ“nippon proud”を開設。

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