復刊によせて
2020年はグループモノ・モノ誕生50周年、秋岡芳夫生誕100周年という節目の年です。新型コロナウィルス流行のため、残念ながら関連行事は中止となってしまいました。代わりに何か記念することができないか。そんな思いから本書を復刊しました。
コロナ渦により世の中が大きく変わってしまったいま、秋岡芳夫の著作を1冊だけ復刊するならば、どの本がよいか。悩みに悩んで選んだのが、この『新和風のすすめ―めいめの暮らし、クリエーティブに』です。
本書は秋岡芳夫が亡くなる8年前の1989年に佼成出版社から刊行されました。最晩年の著作だけに、モノ・モノ運動をはじめて以降、彼がずっと訴えてきた工業化社会における諸問題や生活文化の見直しが、平易な文章で凝集されています。
秋岡芳夫は徹底したユーザー視点のデザイナーでした。それゆえに企業の論理にしたがって、生活者が使い捨てやあきらめ買いをせざるをえない状況にあらがおうとしました。〝消費者をやめて愛用者になろう!〟と呼びかけ、生活技術、手の能力の回復を提唱しました。
彼が工業デザインの仕事を辞してでも警鐘を鳴らそうとした工業化社会は、情報化社会へと姿を変え、いまやAI(人工知能)時代が到来しつつあります。AI化が進んだ社会では、単純作業はおろか、知的労働さえもロボットやコンピュータに取って代わられるといわれています。そのことを予見しているかのように、本書は次のような一文ではじまります。
「いったい人間とはなんだったのか、何が人間を人間たらしめているのか——いま、改めて問い直す時期にきています。」 哺乳類のなかで人間だけが進化し、クリエーティブな暮らしを続けてきました。その源泉はどこにあるのか。AI時代を人間らしく生きるためのヒントが本書にちりばめられています。
菅村大全(モノ・モノ主宰)
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著者プロフィール
秋岡芳夫 (あきおか・よしお)
1920年熊本県宇城市生まれ。東京高等工芸学校(現・千葉大学工学部)卒業。1953年にKAKデザイングループを設立。1970年にグループモノ・モノを結成。1971年に著書『割り箸から車まで』を上梓。消費社会の到来にいち早く警告を発し、“立ち止まったデザイナー”を名乗る。「消費者から愛用者へ」「身度尺」「コミュニティー生産」といった持論を展開し、日本人の生活風土に根ざしたデザイン運動を推進した。東北工業大学工学部教授、共立女子大学生活美術学科教授などを歴任。1997年死去(享年76歳)。