こんにちは。ありしろ道具店の有城利博です。
前回のブログでは椀木地の「中削り工程」を紹介しました。中削りを終えると、再び木地を乾燥させます。荒削り後の乾燥と同じく、重さの変化を量り、形の歪みを観察。木地の動きが止まった時点で仕上げ削り工程に進みます。早いものでは1ヶ月ほどで仕上げ削り工程に進むことができます。今回のブログでは、中削りを終えたホオの椀木地を使って、「仕上げ削り工程」を解説します。
仕上げ削り工程では、木地を一定のサイズに仕上げるため、自作の型や治具、片パスや外パスなどのコンパス類を使います。特に型は均一な形の木地を作るために重要な道具ですが、師匠の時松辰夫先生からは、「型をあてるのは2、3回だけ」と言われたことがあります。
私はまだ何度も型をあてて確認してしまうのですが、時間もかかりますし、器の形をすぐにイメージできないので、その迷いが形に現れてきてしまいます。毎日使う器は、作り手の迷いを感じる形よりも、おおらかで素直な形がいいですものね。時松先生のように、型を2、3回あてるだけで形がぴったりと決まるようになるには、まだまだ修練が必要だと感じています。
仕上げ削り工程でも、荒削りや中削りと同じ「木地かんな」をまずは使用します。中削りで大体の形まで削り込んでいるので、1、2ミリほど薄く、逆目が起きないようていねいに削っていきます。型を当てながら削り、ほぼ型通りに削れたら、次は「仕上げ刃物」の登場です。
「仕上げ刃物」は、金属切断用のノコギリをグラインダーで削り、刃先を自分用に成形します。作る器に合わせて刃先の形を調整します。この「仕上げ刃物」を使用することで、より器の形の微調整ができて、起きた逆目も抑えられます。「木地かんな」もそうですが、「仕上げ刃物」も高速で回転する木材を削るので、すぐに刃が切れなくなります。そのため常に砥石を横に置いて、挽いては研いでをくり返す作業になります。
「仕上げ刃物」を使った微調整が終わったら、最後にサンドペーパーで磨いて仕上げます。番手は80番、100番(もしくは120番)、150番、220番を用意しています。針葉樹などのやわらかい木は、100番からスタートする場合もありますが、大体この4種類のサンドペーパーを目の粗いものから細かいものへと順番に使っていきます。
サンドペーパーを使用する時は、ベニヤ板で作った「当て木」を利用すると、木目に影響されずにきれいな面にすることができます。曲面の場合は40番くらいの使い古したサンドペーパーを細かく切って、それを「当て木」として活用しています。
ここで注意したいのは、サンドペーパーをかけたときに発生する摩擦熱です。熱によって木地が歪んだり、ときにはヒビが入ることもあります。形の修正や逆目取りを、サンドペーパーだけに頼って必死に磨いていると、思いもよらない失敗をすることがあります。サンドペーパーはあくまで微調整で使うという心がけが大事です。
仕上げ削りは、木地かんな→仕上げ刃物→4種類のサンドペーパーという流れで、器の外側、内側とそれぞれ行う。
これで椀木地の完成です。次回のブログでは、この木地にプレポリマー(業務用の木固め剤)を使って塗装をします。というわけで、いよいよ次回が最終回となります。前回紹介したヤマザクラの器も完成写真もお見せしますので、お楽しみに。
著者の紹介
有城利博(ありしろ・としひろ)
木工家 ありしろ道具店代表
1974年福井県生まれ。東北大学文学部卒業後、新潟県で家具製作に従事。2005年に伊豆へ移住。NPO法人伊豆森林夢巧房研究所で、木工デザイナー・時松辰夫氏に木の器作りの手ほどきを受ける。2011年にありしろ道具店を設立。地元の旅館や飲食店向けに業務用の食器やテーブルウェアの製作を行う。
ブログ:ありしろ道具店
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