こんにちは。ありしろ道具店の有城利博です。
厳しく長かった酷暑もようやく過ぎ、秋の気配が深まりつつあります。昨年もでしたが、秋の長雨が続いています。しとしと情緒もありますが、湿度が非常に高くなり塗装作業に影響が出るという一面もあります。塗装のタイミングと、からっとした爽やかな天気がぴったりあうと心も晴れやかになります。また、そろそろ丸太の集材のシーズンが近づいてくるのでその準備も始めなければなりません。
さて、前回のブログではトキマツ式木工ロクロの紹介と椀木地の墨付け、そして帯鋸(おびのこ)による木取り作業を説明させていただきました。今回は帯鋸で丸く木取った材料を実際に木工ロクロを使って荒削りをしていきます。
トキマツ式木工ロクロは、真空装置で材料を吸着することができます。しかし帯鋸で切っただけの材料は、吸着面が平らでなく、吸着が十分でない場合があります。しかも水分を含んで重たいので、回転中に材料そのものが吹き飛んでしまうことがあります。そこで最初は治具に材料を打ち付け固定します。この治具も作るものに合わせて釘を使って自作します。
まずは椀木地の外側を削っていきます。収縮したり歪んだりすることを考慮して仕上がり寸法よりも大きく削ります。今回は一個だけを削りましたが普段はある程度まとめて製作するので、直径を測る道具や高さを決める道具を使い効率的に同じ大きさ・形に削っていきます。
外側が削り終わりました。次に内側を削ります。
椀木地の内側を削る時は、真空装置を使って木工ロクロに吸着させます。その時に吸着口にぴたりとはまるように削っておくと、よりしっかり固定できます。ただし、あまりに水分たっぷりの材を削る時は水分まで吸ってしまい真空装置によくないそうなので気をつけてください。
椀木地の内側を削る時はまず中心にドリルで穴をあけ削り込む深さを決めてしまいます。
水分を含んだやわらかい木を木地鉋で削るときに、木地鉋がほんとうによく切れる状態だと気持ちがいいものです。木地鉋をそっと木にあてるだけでするするすると削れていくのです。それは「木を削る」というよりも「木を迎える」という感覚に近いのです。力でごりごりと削るのとするするすると迎えるのでは音も違いますし、気持ちの入り方が全然違います。そういった意味でも木地鉋の切れ味というのは重要になってきます。
内側も削り終わりました。最後に木口面や白太部分を中心に白ボンドを塗っておきます。こうするとボンドの塗膜ができ、急な乾燥による割れを防ぐことができます。仕上がり予定の椀木地と、荒削りが終わった椀生地を並べて撮影してみましたので、下写真で大きさの違いを比べてみてください。
荒削りをした後は工房の棚に寝かせてしばらく乾燥させます。重さを量り水分の減り具合を確認しながら自然乾燥させます。乾燥期間は半年から1年かかります。
次回のブログは少し趣を変えまして、地元の伊豆で実施されたクラウドファンディングのプロジェクトを紹介したいと思っています。引き続きよろしくお願いします。
著者の紹介
有城利博(ありしろ・としひろ)
木工家 ありしろ道具店代表
1974年福井県生まれ。東北大学文学部卒業後、新潟県で家具製作に従事。2005年に伊豆へ移住。NPO法人伊豆森林夢巧房研究所で、木工デザイナー・時松辰夫氏に木の器作りの手ほどきを受ける。2011年にありしろ道具店を設立。地元の旅館や飲食店向けに業務用の食器やテーブルウェアの製作を行う。
ブログ:ありしろ道具店
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