こんにちは、ありしろ道具店の有城利博です。
前回のブログでは丸太の半割作業と板作りの作業について説明しました。さあ次は荒削りの工程ですよ。とお知らせしましたが、よく考えてみたら、木地(器のボディ)作りの流れをまだ説明していないことに気がつきました。というわけで、今回は荒削りから仕上げまでの工程を説明します。
生木を使った椀や皿の木地は、以下のような工程を経て完成します。
集材→半割・板作り・荒木取り→荒削り(荒挽き)→乾燥→中削り→乾燥→仕上げ(木地調整)→塗装
「木材を乾燥させてから削るのが普通では?」と思われる方がいるかもしれませんが、乾燥した木材は材質が締まって堅くなり、器の深さまで削り込むのはなかなか大変な作業なのです。
しかも「一寸一年」と言われるように約3センチの板が乾燥するのに最低でも1年ほどかかります。削る労力を減らし乾燥期間を短くするために、私の工房では、水分を含んだ生木の状態(やわらくて削りやすい)で加工を始めます。
しかし、生木の状態で削ると、乾燥が進むにつれて木材は収縮し、割れたり、歪んだりします。その歪みを取るのが中削りです。そしてもう一度乾燥させ、木材の動きを出し切ってから仕上げ(木地調整)に移ります。
削る工程にいく前に、製作する器の大きさや形をあらかじめ把握しておく必要があります。そこでまず、器の断面図を描き、そこから内と外一対の「型」を作ります。ここから木の収縮、歪みを想定して、仕上がり寸法よりひと回り大きく荒削り(荒挽き)をします。ロクロの仕事を始めたころは荒削り用や中削り用の「型」も作っていましたが、現在は仕上げ用の「型」だけを作り、そこから大体の予想をして荒削りをしてしまいます。当然、「型」は形や大きさごとに作るので、工房の中は型だらけになっています。
「型」を使わず、生木の状態から一気に器に仕上げ、乾燥に伴う木の自然の歪みをそのまま活かした、一点物の器も最近よく目にします。そのような表現も魅力的なのですが、この連載では同じ形の器を複数生産する方法、すなわち「型」を使い、削りと乾燥を繰り返すことで形を整えていく方法を紹介していきます。
とはいっても型に合わせて、同じ形のものを淡々と無感情で作っているわけではありません。作り手や使い手に楽しみやよろこびを与えてくれる美しい形を常に求めていくこと。それが「木工芸」であると時松先生に教えていだきました。木の器を量産し、生業としてしっかり成立させる。それと同時に日々、“芸”を追究する。それが「かたちの美を創る職業」であるクラフトマンの責務であると心に留めております。時松先生の手書きのメモにはいつも“芸”の文字が躍っています。
木工芸は「地域の資源を使って器を作り、その地域の人々・食文化・風景をみつめることができる魅力ある仕事」ということを器作りのレクチャーを通して皆さまにお伝えできるとうれしいです。次回のブログでは荒削りの工程を紹介します。
著者の紹介
有城利博(ありしろ・としひろ)
木工家 ありしろ道具店代表
1974年福井県生まれ。東北大学文学部卒業後、新潟県で家具製作に従事。2005年に伊豆へ移住。NPO法人伊豆森林夢巧房研究所で、木工デザイナー・時松辰夫氏に木の器作りの手ほどきを受ける。2011年にありしろ道具店を設立。地元の旅館や飲食店向けに業務用の食器やテーブルウェアの製作を行う。
ブログ:ありしろ道具店
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