こんにちは。ありしろ道具店の有城利博です。
「木を伐るのによい時期は、秋の彼岸から春の彼岸まで」と林業関係者の間ではいわれます。たしかに春の彼岸を過ぎて木が水を吸い上げた状態で伐られた丸太は、気温の上昇もあって割れの進みが早く、カビも発生するので、扱いに注意が必要になります。葉が生い茂る夏場に木を伐って器に仕上げてくださいといわれることもありますが、できるだけ冬まで待ってください、と極力、お願いをしています。冬は集材、春は木地作り、夏は仕上げ、秋に販売。四季の移ろいとともに仕事をするのが理想ですが、実際にはそんなに悠長にはしていられませんね。
昨年秋の彼岸以降、伐採された木が山でそのまま放置してあるという話を、例年以上に多く聞きました。他の木工関係者も同じようなことを言っていました。理由は分かりませんが、今シーズンは特に多いのでしょう。工房をシェアしている仲間2人も、山で使われずにいる木材を利用して器を作っています。材料が手に入ること自体はうれしいのですが、使い切れないほど大量の伐られた木を見るのはなんとも複雑な思いです。と言うことで、1月2月は器の材料にする丸太の運び出しに、相当の時間と労力を費やしました。
今シーズンは、普段からよく使うヒノキ、サクラ、クスなどから、ヤマモモやアンズ、キハダなど、あまり使ったことのない木材まで、多くの種類と量が集まりました。工房の駐車場では置ききれず、近所の製材所跡地をご好意でお借りして、なんとか全部を運び入れることができました。丸太が放置されている場所というのは、たいてい運び出しが困難な場所で、未乾燥の重たい丸太を人力で上げたり下ろしたりします。本当に重労働できつい仕事ですが、周囲の方々が持てる大きさに玉切る作業を手伝ってくれたり、ユンボを出してくれたり、トラックを貸してくれたり、いろいろと協力してもらえるので、心から感謝をしています。
丸太は人力で持ち運べる長さに玉切りし、工房にある帯鋸で半割作業に進みます。帯鋸に入りきらない丸太は、チェーンソーを使って木の中心を通る線で先に半分に割ってしまいます。この工程はけっこう無駄が出るので、場合によっては長い丸太をそのまま製材所で板に挽いてもらうこともあります。
私たちのシェア工房は、工務店の作業場だったところです。木材を切るときは、その工務店時代の帯鋸をそのまま使わせてもらっています。大きな帯鋸ですが、刃物の研磨屋さんからは「帯鋸では軽トラ級だから無理をしないでね」と言われています。実際、大きな堅い木を無理して切っている時に木が噛んでしまったり、刃が割れてしまったりするなど、危険な場面が多々ありました。
工房の仲間2人は、普段はそれぞれの仕事をしていますが、とにかく重労働な集材と危険を伴う帯鋸を使った半割作業は、仕事のスケジュールを合わせて皆で協力して進めています。
前回のブログで木地かんな作りを解説したので、次は半割作業と板作り、そして荒削りと書き進めたかったのですが、集材に追われて半割作業の記事を書くことができませんでした。暖かくなって割れが進んだり、カビが入ったりしてしまう前に工程を進めて、ブログでも紹介したいと思いますので、楽しみにしていただければうれしいです。
著者の紹介
有城利博(ありしろ・としひろ)
木工家 ありしろ道具店代表
1974年福井県生まれ。東北大学文学部卒業後、新潟県で家具製作に従事。2005年に伊豆へ移住。NPO法人伊豆森林夢巧房研究所で、木工デザイナー・時松辰夫氏に木の器作りの手ほどきを受ける。2011年にありしろ道具店を設立。地元の旅館や飲食店向けに業務用の食器やテーブルウェアの製作を行う。
ブログ:ありしろ道具店
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