こんにちは、ありしろ道具店の有城利博です。
厳しい暑さが続いていますね。西日本や東京に比べれば、伊豆は比較的過ごしやすいのかもしれませんが、それでも工房内は蒸し暑く、扇風機は涼風ではなく温風を運び続けている状態です。
時松辰夫先生は「エアコンなどを使用して作業環境を整えて、製作意欲や生産力を落とさないような工夫をしなさい」おっしゃっていましたが、私たちのシェア工房の暑さはほめられたものではありません。汗をかきながら、なんとか仕事を続けています。読者の皆さん(とくに作り手の方!)も、水分や休憩をこまめにとるなどして熱中症には十分お気をつけくださいね。
さて、前回の記事投稿からずいぶん期間があいてしまいました。なかなか工程が進まず申し訳ありません。本連載その8で板作りをしたアンズとホオですが、アンズの板のほうに見事にヒビ割れができてしまいました。サクラやウメ、アンズなどバラ科の木は歪みやすく割れやすい(特に白太の部分が入っている場合)ので、慎重に乾燥していたつもりでしたが、昨今の暑さのせいで急に収縮してしまったようです。これは仕方ないので、スプーンなど小さいものを作ることにします。ということで、今回はホオの木を使って、椀木地を作ることにしました。
まず最初にコンパスを使って墨付けをします。木口の割れや節が入らないように木の全面をしっかり見ながらの作業です。見えない内部も想像しなければなりません。そして当然ですが、仕上がり寸法の円を描くわけではありません。荒削りをして乾燥させると、木が縮んだり歪んだりします。その縮みを予想して仕上がり寸法よりもひとまわり大きく円を描きます。
今回使ったホオの木は比較的歪みが少なく、板に挽いてから数ヶ月桟積み(注:板と板の間に桟木を置き、隙間をあけて積んで乾燥させること)してあったので、削る部分はあまり大きく取りませんでした。これが伐ったばかりのサクラ材などだと、かなり大きめに取らなければなりません。荒削りで薄くしておけば乾燥も早いのですが、縮んでしまって予定していた大きさが取れないなんて失敗もよくあります。逆に大きく取り過ぎた時に、厚みがあり過ぎて歪みきれずに割れてしまうということもあるので、この加減は慎重に行います。
墨付けができたら帯鋸で丸く成形します。仕事の効率上、いくつかまとめて成形するのですが、この成形した状態から荒削りを終える間に乾燥が進み、割れてしまうということもあります。この段階で割れると、とても残念な思いをするので、生木を扱う時には注意しましょう。
さて、ここからろくろ(木材を回転させながら刃物をあてて木を削ること)仕事に入ります。その前に私が使用している木工ろくろの機械を紹介しておきましょう。
大分県日田市にあるハイテック北村というメーカーが製作している「トキマツ式ロクロ」です。時松先生の監修のもと開発された特別モデルで、私も含め時松先生の弟子は、ほぼ全員、本機を使っています。この木工ろくろは真空で材料を吸着でき、足元のペダルで右回り、左回りの回転を作動させます。手元のダイヤルで回転速度を変える事ができます。
ろくろにはいろいろなタイプがあって、トキマツ式のようにろくろの回転軸に向かって、立った状態で使用するものもあれば、回転軸に対して横向きに座り、使用するタイプもあります。職人によって違いますし、産地によっても違ってきます。この違いを見て歩く、全国の産地ツアーをいつかやってみたいです。
私は独立する前に大分県湯布院町の時松先生のアトリエを訪れ、その時にメーカーの方を紹介してもらい、トキマツ式ロクロを注文しました。私の仕事になくてはならない大切な機械です。
この後は実際に木取ったホオの木を、いよいよろくろで荒削りしていきます。次回のブログもぜひお楽しみに。
著者の紹介
有城利博(ありしろ・としひろ)
木工家 ありしろ道具店代表
1974年福井県生まれ。東北大学文学部卒業後、新潟県で家具製作に従事。2005年に伊豆へ移住。NPO法人伊豆森林夢巧房研究所で、木工デザイナー・時松辰夫氏に木の器作りの手ほどきを受ける。2011年にありしろ道具店を設立。地元の旅館や飲食店向けに業務用の食器やテーブルウェアの製作を行う。
ブログ:ありしろ道具店
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