こんにちは。ありしろ道具店の有城利博です。
こちらのブログで、荒削りの工程を説明したのは半年前でした。荒削りから形を整える中削りの工程の間には木地を乾燥させる時間が必要で、通常半年から1年ほどかかります。時間はかかりますが、しっかりとした器を作る上で大事な期間です。というわけで、今回のブログでは中削りの工程をご紹介します。
木地の乾燥が進んだかどうかは重さで判断する
乾燥が進んだかどうかの確認は、木地の重量変化で判断します。一定期間ごとに重さをはかり記録しておきます。今回ブログのために用意した椀の材料は、荒削り段階で乾燥が順調に進み、歪みが少なかったので、荒削りした段階と重さや形の変化がほとんどありませんでした。
しかし、樹種によっては水分が抜けて日に日に軽くなり、みるみる歪んでしまうものもあります。時には割れが生じたりするので、定期的な観察が大切です。割れが生じた場合には、少し削って木地を薄くするなどの対策を施します。
余談ですが、木地が落ち着いた(重量変化が止まった)としても、すぐに中削り工程に進まないようにしています。木には養分が含まれるからです。水分は比較的抜けやすいのですが、養分はなかなか抜けません。養分が木地に残っていると、後々歪みの原因になったりします。昔から木材を水に浸けて養分を抜く乾燥方法があるのはそのためです。重量変化がとまっても、さらにしばらく乾燥させて木地を落ち着かせることが器作りでは大切なポイントです。
乾燥中に生じた歪みを中削りで取り除く
いよいよ、木工ロクロを使っての中削り工程に入ります。使用する刃物は荒削りで使用する刃物と同じ木地カンナです。中削り工程の目的は、乾燥期間に生じた歪みを取り、仕上げ削りに向けて形を整えることです。上の写真は、荒削りの椀の外側を木地カンナで中削りしている様子です。表面の光沢は、荒削り後に割れ止めのために塗った木工ボンドの塗膜です。光沢がない箇所が中削りを行った部分です。違いがはっきりとわかります。
中削りでは、器の内側、外側ともに、もう一削りしたら仕上げ寸法になるというところまで慎重に削っていきます。実際には仕上げ寸法から1~2ミリ程度残す感じでしょうか。次の写真は荒削りのものと中削りを終えたものです。木地がだいぶ薄くなりました。
仕上がりの形をイメージしながら中削りを行うのが理想
師匠の時松辰夫先生に「中削りしたものは、仕上がりの形が見えていなければならない」と言われたことがあります。修業中はよく理解できなかったのですが、最近はその言葉を自分なりに少し解釈できるようになりました。
さっと一削りしたら仕上がるという作業の効率面はもちろんですが、仕上がりの形が見えていないと、仕上げの時に形をどう整えるか悩んでしまい、素直でない形になってしまいます。毎日使う器は、おおらかで豊かな形であることを目指しています。したがって、中削りの段階で仕上がりの形が見えている方がいいのです。中削り工程は、ともすると気を抜いてしまいがちなのですが、中削りの意味合いをしっかり心に留めて、丁寧に仕事をしていきます。
前回のブログでご紹介したヤマザクラの大皿(クラウドファンディングの返礼品)を作ったのですが、荒削り後に大きく歪みました。サクラは一般的に歪みが大きいので、最初から余裕を持って木取りをしています。それでも、重さをはかり、歪みをチェックしながら「もうこれ以上歪まないで!」と願を掛けることもあります。以下は1回目の中削りのビフォーアフターの写真です。
このヤマザクラの大皿は、歪みを少しでもなくすため、2回にわけて中削りを行いました。中削り後はまたしばらくの期間、木地を乾燥させ落ち着かせます。
次回のブログではラストの仕上げ削りの工程を紹介します。それではまた!
著者の紹介
有城利博(ありしろ・としひろ)
木工家 ありしろ道具店代表
1974年福井県生まれ。東北大学文学部卒業後、新潟県で家具製作に従事。2005年に伊豆へ移住。NPO法人伊豆森林夢巧房研究所で、木工デザイナー・時松辰夫氏に木の器作りの手ほどきを受ける。2011年にありしろ道具店を設立。地元の旅館や飲食店向けに業務用の食器やテーブルウェアの製作を行う。
ブログ:ありしろ道具店
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