こんにちは。ありしろ道具店の有城利博です。
今年も器の材料となる丸太(クス、サワラ、サクラなど)を、各地から集める季節がやってきました。いろいろな理由で伐採された木々を軽バンやダンプカーを借りて引き取りに行き、工房へ運び込む日々が続いています。
前回のブログでは、器の荒削りの工程について説明しました。荒削りした器は、現在乾燥中で次の工程まで少し時間があります。そこで今回は、私がシェア工房の仲間と一緒に取り組んでいる、地域材活用のプロジェクトを紹介します。
そのプロジェクトとは、西伊豆エリアで活躍している株式会社 BASE TRES(ベイス・トレス)が、2018年8月に目標達成したクラウドファンディングのことです。
同社は、山中の使われなくなった古道を整備してマウンテンバイクのトレイルツアーを提供している会社です。トレイルツアーだけにとどまらず、古道を再生する過程で伐採した木々を活用し、新たな魅力を生み出し、「山をまわす」という発想のもと、活発な活動を行っています。
今回のクラウドファンディングは、西伊豆の文化や楽しみ方を発信する拠点&宿泊施設「ロッジモンド」の工事費用の一部を集めるために企画されました。クラウドファンディングでは、賛同いただいた方に「リターン」とよばれる返礼品を送ることが通例になっています。今回のプロジェクトでは古道整備の際に伐採した木材をリサイクルした器が返礼品のひとつに選ばれています。うれしいことに、同社代表の松本潤一郎さんから声をかけていただき、その器の製作を担当させていただくことになりました。
このプロジェクトに対する松本さんたちの思いや古道を再生していく様子、トレイルツアーの動画などが、キャンプファイア(クラウドファンディングのウェブサイト)のウェブサイトで公開されています。これらを観るだけでも西伊豆の魅力が伝わってきますので、ぜひごらんください。ちなみに本プロジェクトは目標を大きく越える支援があり、募集はすでに終了しています。
返礼品となる器の材料にはヤマザクラを使いました。大変重い材料ですが、西伊豆から中伊豆の工房まで代表の松本さん自ら運んでくださいました。リターン品となる器は種類や数が多いため、シェア工房のメンバー3人で協力し、分担して製作することにしました。
その器作りは、2019年1月現在も続いています。以下に紹介するのは、その製作の様子です。過去のブログで紹介してきた器づくりの工程と同様に、チェーンソーで玉切りをし、帯鋸で板作り、そして荒削りと作業を進めています。サクラの木は乾燥段階で生じる動きが大きいので、慎重に緊張しながらの作業です。
リターン品のひとつである大皿は2018年の夏に荒削りをしたのですが、乾燥中に見事にゆがんでしまいました。そこで先日、木工ロクロで削ってゆがみを取り、形を整えて仕上げ寸法に近づける工程を行いました。この工程を「中削り」といいます。
これからさらなる乾燥と木の動きを出し切ってから仕上げの削りとなります。リターン品の完成と支援してくれた方へのお届けは2019年の春。西伊豆の桜が咲くころになる予定です。
本ブログの方もまだまだ続きます。次回のブログは、この「中削り」について書きたいと思っています。荒削り後、乾燥中に変形してしまったサクラの中削りのビフォーアフターも紹介しますので、ひき続きよろしくお願いします。
著者の紹介
有城利博(ありしろ・としひろ)
木工家 ありしろ道具店代表
1974年福井県生まれ。東北大学文学部卒業後、新潟県で家具製作に従事。2005年に伊豆へ移住。NPO法人伊豆森林夢巧房研究所で、木工デザイナー・時松辰夫氏に木の器作りの手ほどきを受ける。2011年にありしろ道具店を設立。地元の旅館や飲食店向けに業務用の食器やテーブルウェアの製作を行う。
ブログ:ありしろ道具店
※有城さんが白木の器に使用している木工塗料は、「木固めエース普及会オンラインショップ」で購入できます。