初めまして。伊豆で木の器づくりをしている、ありしろ道具店の有城利博です。 このたび、木固めエース普及会のブログに記事を書かせていただくことになりました。塗料や塗装の話題を含め、毎日の木の器づくりで意識している点や感じたこと、時松辰夫先生に教わったことなどを自分なりの言葉でお伝えできればと思っています。
時松先生は、湯布院にある「アトリエときデザイン研究所」の代表で、日本全国でその土地に合った木の器づくりを指導している方です。私も独立前に所属していたNPO法人にて器づくりの技術・思想を学ばせてもらいました。
文章にして伝えることで、自分自身、しっかり再確認したり、より深く理解することにも繋がると期待しています。もちろん内容に問題があったり、思う事を文章でうまく伝えられない事もあると思います。そのような時はぜひお気軽にご意見をお寄せください。そして、皆さまと活発な木工芸談義を展開することができればとてもうれしいです。
さてさて、まずはどんなことを書けばいいのかと悩んでいたところ、工場の近くで木を伐ったので取りに来て、と連絡がありました。
大きな旧家の庭にあったヒノキです。大きくなり過ぎて倒れる危険があるという理由で伐ることになったそうです。何か形になって残ってくれればということで声をかけていただきました。
畑や庭で大きくなり過ぎた木、建設工事で撤去されてしまった木、里山で間伐された木。それら伐られた木の多くはチップにされたり、その場に放置されたままになっています。「木は平等」という時松先生の言葉を胸に、こうした役に立たないと思われている木々から、毎日の生活に使える器を生み出すことが私の仕事であり、やりがいでもあります。
もちろん、器づくりの材料として好きな木もありますし、苦手な木もあります。 今回のヒノキは伊豆に来て特に好きになった木のひとつです。今まで住んでいた土地では針葉樹というとスギでしたが、伊豆はヒノキがとてもたくさん植えられています。親しみやすく品のある表情と安定した材質で、お椀にしても、お皿にしても、箸もしゃもじでも何を作ってもしっくりきます。 椎茸(しいたけ)栽培が盛んな伊豆ではクヌギもまた代表的な木ですが、その堅さと歪みや割れには頭を抱えてしまいます。しかし、その特徴を生かした器もまた魅力的なので、今後はそのような苦手も克服していかなければなりません。
伐られた木は、持ち上げられる大きさにチェーンソーで玉切りにします。そして工場に運び込まれた材は、帯鋸(おびのこ)で半割りにした後、作るものの厚みの板に製材し、生木の状態で木取り・荒削り・乾燥と工程が進んでいきます。加工工程の事はまた次回以降順次記事にしたいと思います。器として完成するのはおよそ一年後です。「忘れるほど放っとけ」という話もあるように、さすがにそこまではできませんが、時間をかけることは木工芸では大切な事のひとつです。
器などを木取ったあとの木っ端は冬の間、燃料として工場を暖めてくれます。 さらに、手作りの窯でピザを焼く友人、草木染めやクロモジの蒸留でかまどを使う友人達にも木っ端を使ってもらっています。 そんな風に、無理の無い自然な流れで、身近な木々がその地域の色々な人たちの営みを支えてくれることが私の願いであり、楽しく豊かな生活だと信じています。
そんな訳で今日も工場の前にはいくつもの種類の木々が集まってきています。
著者の紹介
有城利博(ありしろ・としひろ)
木工家 ありしろ道具店代表
1974年福井県生まれ。東北大学文学部卒業後、新潟県で家具製作に従事。2005年に伊豆へ移住。NPO法人伊豆森林夢巧房研究所で、木工デザイナー・時松辰夫氏に木の器作りの手ほどきを受ける。2011年にありしろ道具店を設立。地元の旅館や飲食店向けに業務用の食器やテーブルウェアの製作を行う。
ブログ:ありしろ道具店
※有城さんが白木の器に使用している木工塗料は、「木固めエース普及会オンラインショップ」で購入できます。