白木の器作り・その15「プレポリマー加工」の方法

秋岡芳夫の盟友、時松辰夫(アトリエときデザイン研究所代表)に師事した木工家・有城利博さんが、白木の器の作り方をレクチャーする連載企画。最終回となる本稿では、浸透性のウレタン塗料(プレポリマー)を使った塗装の工程がくわしく紹介されています。

文: 有城利博(木工家・ありしろ道具店代表)

塗装した器を並べる乾燥棚
塗装を終えた器は棚に並べて乾燥させる

こんにちは。ありしろ道具店の有城利博です。

前回のブログでは「仕上げ削り」について説明することができました。今回は、仕上げ削りを終えた、ホオの椀木地を木固め(プレポリマー)加工し、食器用のウレタン塗料をスプレーガンで吹き付ける工程を紹介したいと思います。

ウレタン塗装に使用している塗料
プレポリマーは学校給食用の木製食器に40年以上使われているという。

木の器の塗装方法としては主に、漆塗り、オイル仕上げ、ウレタン塗装などがあり、最近ではガラスコーティングによる塗装も見かけるようになりました。

私の工房ではクリヤータイプのウレタン塗料を主に使用しています。理由は2つあります。ひとつは身近にある色々な木々の多彩な木目を見てもらいたいから。もうひとつは、旅館や飲食店で使っていただく器を作ることが多く、業務用食器として耐水性と耐久性、コストパフォーマンスが求められるからです。

現在使用しているウレタン塗料は、以下の銘柄です。

下地:プレポリマー PS No.1000
中塗り:エステロンカスタムDX(クリヤー)
上塗り:エステロンカスタムDX(全艶消クリヤー)
上記のほか希釈用としてPS-NYシンナーを使用

いずれも木固めエース普及会オンラインショップで購入しています。

プレポリマー浸透作業の様子
プレポリマーを使った木固め加工の様子。ウエスを使い常温で浸透させる。

ウレタン塗装というと1回塗装して終わりというイメージがあるかもしれませんが、私の工房では、木固め加工(下地の処理)にはじまり、中塗りを3回、最後に上塗りを行います。塗っては乾かし、研磨し、何層にも塗膜を重ねていきます。漆器ほどではありませんが、手間暇をかけることで業務用の食器としても使える耐久性を持たせています。

木固め加工には、「プレポリマー PS No.1000」を使います。これは木製の学校給食器のために開発された浸透型のウレタン塗料で、常圧・常温で木材の中までしみ込み、内部で硬化します。これによって木地の狂いを防ぎ、導管などを平滑にする効果があります。

プレポリマーには針葉樹用、広葉樹用、ハイグレード版の3種類がありますが、私はコスト面なども考慮して、PS No.1000で対応しています。メーカー推奨の施工方法は、木固め(プレポリマー)加工後に目止め剤をさらに塗り込みますが、私は割愛しています。それらによる仕上がりや塗装の性能について特に問題を感じることはありませんが、導管の大きな樹種で表面をよりなめらかに仕上げたい場合などはプレポリマーの使い分けや、目止め剤の使用をおすすめします。

なお、塗装に使用する道具や塗装テクニックは、木固めエース普及会のウェブサイトで紹介されていますので、そちらをご覧ください。

器を回転させながら全体に塗料を吹き付ける様子
ムラが出ないようにスプレーガンを使い、台座を回転させながら塗り重ねる

プレポリマー浸透後、十分乾燥させてから中塗り工程に進みます。私の場合、器の外側と内側、それぞれ3回ずつ塗り重ねます。湿気が多い雨の日や、気温が高くなる日は、できるだけ塗装を避けるようにしています。

余談ですが、先日、同業者と塗装の苦労話で盛り上がりました。特に大変なのが夏場です。ここ最近の猛暑のせいで、塗装後に一気に室温(気温)が上がり、塗膜に小さな気泡ができてしまうことがあります。それを除去するのに手間がかかります。ウレタン塗装といえども、漆塗りのように天候を見ながら作業することは欠かせません。

水研ぎ作業の様子
上塗りが完了したら、最後は耐水サンドペーパーで水研ぎし、表面を滑らかにする。

中塗りを終え、十分乾燥させたら、水研ぎの工程に進みます。研ぐ作業というのはたいへん地味で時間のかかる作業ですが、私はこの工程を大事にしています。

中塗り後の水研ぎ作業は、器の微妙なカーブの不具合を発見するチャンスでもあり、また、研ぐ作業で全体を手で触れることによって、形の善し悪しを判断する「手」の感覚を磨くことにもつながるのです。研修時代、水研ぎ作業だけは研修生全員でやることになっていたのは、そういう意味もあったのではないかと今になって気付いています。

水研ぎ終了後は、いよいよ上塗り(仕上げ塗装)になります。仕上げ用の「全艶消クリヤー」を、外側と内側1回ずつ吹き付けます。乾燥後にチェックをしてこれで塗装が完了です。

完成したホオの椀とアンズのスプーン
完成したホオの椀とアンズのスプーン

完成したホオのお椀です。ウレタン塗装することで木地の色合いがそのまま残り、汁ものでも問題無く使用することができます。写真のアンズのスプーンは、連載10回目で紹介した、割れが入ってしまったアンズの板から作ったものです。

ヤマザクラの大皿
ヤマザクラの大皿

連載12回目で紹介したヤマザクラの大皿もできました。こちらの器は、伊豆山中の古道(林道)を整備する際に伐採されたヤマザクラを使って、クラウドファンディングの返礼品として作ったものです。

ホオやアンズやヤマザクラの色彩。これは私の師匠、時松辰夫先生の著書『山村クラフトのすすめ』にある言葉、「山村でしかできない工芸の色彩、木の美しさ」を体現したものだと感じますし、このようなものづくりができることに感謝をしています。白木の器づくりの醍醐味をもっともっと多くの方に伝えることがこれからの私の仕事だと思っています。

全15回にわたって、白木の器作りの技法や思いを文章にしてきましたが、今回でいったん終了となります。最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました。機会がありましたら、伊豆の里山の色彩を見に、私の工房にお立ち寄りください。

著者の紹介

有城さん

有城利博(ありしろ・としひろ)

木工家 ありしろ道具店代表

1974年福井県生まれ。東北大学文学部卒業後、新潟県で家具製作に従事。2005年に伊豆へ移住。NPO法人伊豆森林夢巧房研究所で、木工デザイナー・時松辰夫氏に木の器作りの手ほどきを受ける。2011年にありしろ道具店を設立。地元の旅館や飲食店向けに業務用の食器やテーブルウェアの製作を行う。
ブログ:ありしろ道具店

※有城さんが白木の器に使用している木工塗料は、「木固めエース普及会オンラインショップ」で購入できます。

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