「モノとモノとの関係のデザインを、夜の脱グループプロジェクトで」

グループモノ・モノの設立経緯や活動内容について、1972年に秋岡芳夫がデザイン誌『工芸ニュース』に寄稿した原稿のアーカイブ。「モノとモノとの関係を、脱グループのモノたちのエゴイズムなしの発想やデザインや製作でやろう!」という提案のもと、プロジェクトチームの結成が声高々に宣言されています。

文: 秋岡芳夫(工業デザイナー)

物好き集合!

“物好き”とは、あきらめ買いなど、どうしてもやれぬ奴のことである。あきらめ暮しを強いられるとムカムカしてくる性質のてあいである。失礼商品を買わされたら改造しようと試みる奴もそうである。失礼な売場で失礼な応接をされても、精こりもなく気に入ったものが見つかるまで、デパートを何軒でも歩きまわる奴のことである。それがデパートには無いんだと解ってもなお日本中を歩いてでも、それを探し出してくる奴のことである。

物好きな奴とは、企業エゴイズムというぺトンで身をかためた生産機構の中に自分で飛込んで行って、なんとかして自分の気に入った物をこしらえてやろうと、デザイン提案などを繰返す奴のことである。大会社に勤めて25年、節をまげずにいい物づくりの提案づくりを続けたが、大企業のやる物づくりの物差しはおれの物差しには合わぬと知って、停年間際に恩給を棒に振ってフリーデザイナーを志ざす野郎のことである。 昔、絵かきやエンジニアや彫刻家からデザイナーに転向したてあいにはこんなタイプの奴が多かったけれど、近頃のインスタントデザイン学校出にはこんな物好き野郎はまれになった。

物好きデザイナーは減ったが、世でいう消費者の中にはこういうてあいが今でもゴマンといて、彼らは、近頃の工業製品に買いたい物など一つもありゃしない。“買わされ買い”はご免だよと、物好き特有の物買い欲、物所有欲の方はもっぱら古道具買いや古民具買いで充足させ、そこら辺のデパートの“失礼売場”などには金輪際近寄らず、民芸協会旅行かなんかで覚えた手の仕事の産地へ、一人で出掛けて行って、塗師や竹の編手から直接椀や竹籠をわけてもらって、いい旅でござんした、いい買物で楽しかったぜと友人をうらやましがらせて結構楽しく暮らしている。

無理と承知して工業製品メーカーのクライアントに「心をこめた物づくりを!」などというもんだから、あんまりはやらないフリーのIDデザインの親方も相当な物好きだ。
なんぼメーカーに提案しても、デザイン料はくれてもなかなか案を実施してくれぬ相手に業をにやし、ほなら一丁自分でやったろかと、なれぬメーカー転業でやりそこね、それでもこりずにまたまた名案珍案をひねくってる物好きデザイナー。

このままじゃ体が参っちゃいそうだといいながらの薄利多売屋のセールスマンづとめの男、どうせ“あきらめ買い”の客を相手のしがねえ商売。安い物探し、安い物の数売り、買い気のない客の説得などでぐったりする程つかれ果てていながらも、仕事のあい間の寸刻を見つけて、“物好き”相手に売る“本もの”探しをやってる物好き野郎。この男自分の“ほれた物”だけ売って暮らしたい。ほれた物探しなら体を張っても張り甲斐があるさと、東北に物好きな親爺のやってる町工場があると聞けば飛んで行き、裏木桧の、昔杣(そま)が住んでたような山奥に、へんな木工屋がいるとの話を小耳にはさめば、そこまで出掛けて行く物すごく物好きな営業マン。

その営業マンが訪ねた先の木工場のリーダー株の男がこれまた相当な物好きで、塗装はふき漆しかやらぬよとうそぶく。高くなって売りにくかろうに、手間がかかって大変だろうにと聞くと、ほかの塗料はみんな嫌いなんだという。

産地を見に行ったデザイナー。ここは昔、日本刀の名品の数々を鍛えていた所だから、さぞいいナイフやフォークを作りつづけているだろうと思っていたのに、何だこのざまは!コロリドルショック型の安物ばかりじゃないか。これじゃご先祖様の孫六に申しわけが立つまいと、柄にもなく産地メーカーに説教すること数年。やっとどうやら少し気に入った物ができるようになりましたと、この間は喜んでいたと思ったら、やっぱりまだまだ駄目だ。東京に近頃輸入されてるジョージジャンセンとかいうケトウの方が孫六よりいい物をつくってる。口惜しいことだ。一体あいつらはどんな物づくりをやってるのだろう。でき上った物だけ見たんじゃよく解らんが、どうやら生活から違うんじゃなかろうか? “あきらめ暮しのあけくれ”じゃこうはゆかぬ。どれちょっとこの目でたしかめて見るべしと、デザイン事務所をたたんでの北欧勉強旅行。

この物好き男の帰国一番のセリフがこうなのだ。
「負けだ!行って見たら、すごくいい人たちが、すごくいい環境で楽しみに物をつくっていやがった!」
世の中まだまだ捨てたもんじゃないな。こんな仰山物好きがいるとは知らなかった。類は類をもってなんとやら、だれも“物好き集合!”と号令したわけでもないのに、近頃の104会議は夜ともなれば物好きどもの“全員集合!”なのである。

脱グループ活動の手はじめに、脱グループメンバーは問題意識と具体的な問題事実をもち寄ってプロジェクトチームをつくりはじめる。
脱グループ活動の手はじめに、脱グループメンバーは問題意識と具体的な問題事実をもち寄ってプロジェクトチームをつくりはじめる。

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