失礼な商品計画
ポットメーカーで電子ジャーの新製品を見せられた。わざわざ悪くデザインしましたという新製品を見せられた。わざわざ悪いデザインするなんて客が聞いたら馬鹿にするなとさぞおこるだろうが、泥棒にも三分の理、ちゃんと理由があってのことなのである。理由はこうだ。
電子ジャーはまだ世に出て日の浅い商品だ。今のところポットメーカーの独占商品である。よく売れている。もっぱら地方でよく売れるようだ。でも欲を出して都会でも売ったらと思うのは素人の考え。その道の専門家は心得ていて都会では絶対に売れないようにデザインをするのだそうである。
田舎むきに、あくどい柄をつけ、都会の客が見たらむなくそが悪くなるような色彩に、わざと悪くデザインするのだそうである。こうしておけば一応安心。 ではもしいいデザインをしたらどうなるのかと聞いたら、そうしたら都会でうれるでしょう。そうすると大手弱電メーカーが待ってましたと乗り出してくる。そうなったら万事休す。やられてしまう。だから田舎っぺへの悪いデザインにしてあるんです、と……。
この話を聞いたとき世の中には随分面白い製品企画があるもんだと感心したが、まて、これは客には随分失礼な商品づくりなんだと、感心することはとり止めた。
同じくポットメーカーのポットの新製品の失礼な色彩決定会議のこと。
営業、「今年の型、なかなかいいじゃない。ところで色は何色づつ作ってもらえるの?」 「工場側としては、去年よく出た赤と青の2色のつもりなんですが……」 「たった2色? 2色じゃ商売にならんですよ。せめて4色揃えなくっちゃ、売場のディスプレイがもたないよ。」 「去年は5色作ったでしょう。でも売れたのはほとんど赤ばかり。それに青が少し……」 「緑や黄もぼつぼつだけど出たよ」 「そのぼつぼつが困るんだなぁ工場は、倉庫の管理は厄介だし……工場はね、赤一本で行きたいんですよ。赤一本ならうんと生産性がよくなるんだ。」
この色決定会議、結局のところ営業部の注文をいやいやのんで、工場側は5色揃えて作ることに同意。
同じくポットメーカーの開発デザイン会議でのやりとり。 若いデザイナー提案説明ーD1「ポットを卓上で茶を楽しく飲む道具として発想しました。」 D2「ポットと一緒に使うティーポットやティーカップも組んでデザインして見ました。」 D1「白いマット地の陶器に合うように白無地にしました。容量は卓上向きに小ぶりに800ccにしました。」 工場「800cc?、それじゃ自動瓶が使えないじゃない。高いもんにつくよ。」 営業「君たちね、今売れてるの知ってる? 1.9Lと1.6Lだけだよ。1,000ccなんて一本も売れないよ、国内じゃ!」 D1「今まではそうかもしれませんけど、これからは……それにこれはこんな風に瀬戸物と組んでデザインしてあるんです。売るときも組んでならべたら、この小さいポットのよさが解ってもらえると思うんですが?」 工場と営業「うちは陶器のメーカーじゃないんだよ。」 「知ってるだろう。ね、君たち。うちのものは全国の金物屋で売ってるんだよ。金物屋じゃ瀬戸物は扱わんよ。」 D1「じゃお茶屋さんで売ったら……あすこではお茶屋だけど急須も湯呑も売ってます。だからマホー瓶もあつかってくれるんじゃ…。」 営業「お茶屋で売るにしてもだ、1,000cc以下じゃ売れないね。今まで売れたためしがないんだよ!」
かくて、若いデザイナーたちの<使う人に親切なデザイン>、<お茶を楽しく飲む計画>、<組み合わせて作り、組み合わせて売る提案>、<お茶屋でポットを売る名案>はことごとく拒否されてしまった。
今までに売れたためしのない800cc案がいけなかったらしい。デザイナーたちはすごすごと、また去年と同じ花柄のマホ-瓶の把手の部分だけの人間工学的デザインをするために、デザイン室に引上げて行った。
以上、多少のフィクションを交えてスケッチしてみた商品計画のいきさつは、あるものは発想の段階で大きくあきないの都合の方に傾きすぎていたり、あるものは決定の段階ですっかりあきないサイドの強力な発言でチェックされてしまったりしている。売る側の都合だけで発想した商品、売る側だけの意見で押し切られてできた商品が、どうして使う人間に親切な道具であり得よう。失礼な商品計画といわなければならぬ。