オケクラフト・作り手リレー連載(3)松本佳悟

2018年6月1日から約2週間にわたってモノ・モノで開催される「オケクラフト展 in Tokyo」。イベント開催に先立ち、作り手の紹介をリレー形式で行います。3回目は大阪から北海道へ移住し、エゾマツやトドマツを使った器を制作する松本佳悟さんが担当しています。

文: 松本佳悟(木工職人)

松本さん
ろくろを使った器作りの様子。素材は道産のアカエゾマツが中心。

北海道の木彫り熊に興味を持ち、木工の世界へ飛び込む

私はオケクラフト職人養成塾を2017年2月に卒業し、同年3月から研修施設の隣にある共同工房の一室を借りて、木の器づくりに励んでいます。

オケクラフトは「建築材では使えない松のアテ材を使い、小木工品を作れないか」という考えのもと、秋岡芳夫先生や時松辰夫先生の指導ではじまりました。

オケクラフトの製品は、材料にエゾマツを使うことが多かったため、白い器のイメージが定着していますが、誕生から30年経った現在は北海道産の広葉樹を使う作り手も増えています。私の場合は、エゾマツと広葉樹の比率は半々くらいで、主に椀や皿、ボールなどを作っています。

私が北海道で移ってきたのは2006年です。地元は大阪で、大学卒業後は大阪市内でグラフィックデザインの仕事をしていました。木工の仕事に興味を持つようになったのは、北海道旅行の際に阿寒湖の土産店で出会った木彫り熊がきっかけでした。

木彫り熊からアイヌ民族の文化に次第に興味を持ち、ついに北海道に移住することにしました。31歳のときです。最初は品物の裏に名前や日付を彫る仕事をさせてもらっていました。冬の間のお客さんの少ない時期に、土産物店の隣に住んでいた年配の職人から、熊やフクロウの彫り方を学びました。このときの経験が、私の木工活動の原点になっていると感じています。

その後、結婚を機に釧路市から旭川市へ引っ越し、今度は家具工場で働くようになりました。家具作りにも興味はありましたが、メーカーで働くことははじめてだったので、いちからの勉強でした。家具の工作機械ははじめて見るものばかりでした。0.1ミリ単位の精度が求められる職人仕事や仕上げのこだわりなど、驚くことが多い日々でした。

工場での私の仕事は、塗装や研磨などの仕上げ作業が中心でした。手の感覚が大切な作業なので、本当によい勉強になったと感じております。旭川では他社の工場に見学に行く機会も多く、木工旋盤で木地を作る現場にもよく行きました。そこで作業を見せてもらっているうちに旋盤の仕事に興味を持つようになりました。家具製作とは異なる手の感覚を使い、木を削る作業がとても楽しそうに思えたからです。

置戸町の共同工房
現在は町営の共同工房を借りて仕事している。ゆくゆくは町内に自分の工房を構える予定。

オケクラフト仕上げの美しさにひかれ、職人養成塾に入る

オケクラフトのことは旭川に移ってから知りました。木の器を作る仕事をしたいと思い、家具メーカーを退職して旋盤(ろくろ)の仕事を探しているちょうどそのときに、オケクラフトで職人養成塾の募集をしていたのです。オケクラフトの製品は仕上げがとてもきれいで、その技術を学びたいと思いました。

当時、塾生の募集は数年間やっておらず、私たちの代から新体制になりした。現役の作り手であるベテランの講師3人に直接指導が受けられるというシステムに代わり、たいへん恵まれた環境で指導していただきました。刃物の作り方や研ぎ方、木材の見方や削り方、乾燥方法や塗装の仕方、デザインやラインのことなど、2年間でものすごく多くの技術を教えてもらいました。

オケクラフトはもともと秋岡先生から始まり、時松先生の技術指導が主なので、時松先生の考えたデザインが今でも多く作られており、私も幾度か研修時代に製作しました。とても暖かみのあるデザインで、木のぬくもりを考えて作られたデザインだなと感じていました。

また、どま工房にある秋岡資料はすごく多くの種類の道具や製作物がそろっており、毎年開かれる展示会では、秋岡先生の考えや大工道具、民具コレクションなど貴重な資料に触ることのできる、恵まれた環境でものづくりができました。

研修時代、東京にある秋岡芳夫先生のアトリエ(どま工房)を訪ねる機会がありました。置戸町のどま工房のオリジナルを見学した時は、感慨深いものがありました。いままで以上に秋岡先生を身近に感じることができ、忘れられない体験となりました。

このようにたくさん先人達のおかけで、今のオケクラフトが成り立っており、自分も駆け出しながら、その一員としてオケクラフトの発展に携わっていることを誇りとし、これから器づくりの仕事を続けていきたいと思っています。

今回のオケクラフト展には、ボウルを出品しています。野菜やドレッシングを取りやすいように、内側をカーブさせた形にしているのが特徴の器です。残念ながら会場に行くことはできませんが、中野へお越しの際はぜひ手にとってみてください。

仕掛けの作品
加工中の器。荒削りした後にロクロで器の形に成形していく。

著者の紹介

松本さん

松本佳悟(まつもと・よしのり)

木工職人

1975年大阪府生まれ。大学卒業後、地元のグラフィックデザイン事務所に入社。アイヌ文化に興味を持ち、北海道釧路市阿寒町へ移住。阿寒湖のお土産屋で木彫り熊の制作を学ぶ。2011年、結婚を機に旭川へ移住。家具メーカーで仕上げ、研磨に従事。2015年に置戸町移住し、「オケクラフト作り手養成塾」の研修生となる。2018年に町営の共同工房を拠点に「木工房ICHIGO/一期」を設立。松や広葉樹を使った器を製作を行う。

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