オケクラフト・作り手リレー連載(1)佐々木寛之

2018年6月1日から約2週間にわたってモノ・モノで開催される「オケクラフト展 in Tokyo」。イベント開催に先立ち、作り手の紹介をリレー形式で行います。先陣を切るのはオケクラフト第1世代で、白樺を使った器が代表作の佐々木寛之さんです。

文: 佐々木寛之(木工職人・工房くつろ木代表)

くつろ木作品

札幌で働いた後、置戸町へ作り手としてUターン

工房くつろ木の佐々木寛之と申します。よろしくお願いいたします。

くつろ木という工房名の由来ですが、もしかすると私の下の名前を見て、ピンときた人がいるかもしれません。「寛ぎ」と書いて「くつろぎ」と読みます。木を扱う仕事なので、漢字の「木」をあてて「くつろ木」と名付けました。要するに駄洒落(だじゃれ)ですね。

私は置戸町に生まれ、18歳まで住んでいました。子供の頃からオケクラフトの存在は当然知っていましたが、他県の大学に行き、札幌で就職した後、地元に戻ってオケクラフトの作り手になるなんて、神様すらも予想できなかったことでしょう。人生何が起こるかわからないものです。

札幌の靴修理屋で働いていたある日、地元の置戸町でオケクラフトの研修生を募集しているという情報を、ふとしたきっかけで耳にしました。その時は特に何とも思っていなかったのですが、翌日も翌々日も、研修生募集の話が一向に頭から離れません。仕事中も家にいる時も、頭の片隅にずっと引っかかっていたのです。そこでやっと自覚しました。「自分はオケクラフトの作り手になりたいのだ」と。この仕事をしたい、と強く思ったのは人生で初めてでした。

研修生募集の話を聞いた2日後、意を決して妻に相談しました。怒られるかと思った唐突な私のわがままを、妻は快く受け入れてくれました。感謝しかありません。しかし、この研修制度、応募したところで必ず合格するとは限らないのです。私の時は、2名の募集に対して最終的に9名の応募がありました。地味に倍率が高かったのです。

会社にも伝えました。素直にわがままを言いました。要約すると以下の通りです。

「オケクラフトの研修制度に応募したいのですが落選したらまた4月から使ってください」

こんなわがままを快諾してくださった社長に感謝です。結果、1次審査の書類選考を通過し、2次審査の面接と実技試験を突破し、晴れてオケクラフトの研修生として18年ぶりに置戸町に戻ってきました。2012年、36歳の時です。

くつろ木工房
佐々木さんの工房外観。自宅敷地内に別棟として建てられている。

自宅敷地内に工房とショップを同時にオープン

ここから2年間の研修生活が始まりました。まったく畑違いの世界に飛び込むことの苦労を、ここからしばらくの間味わうことになります。知っていること、わかること、できること、やったことがあること。これらが皆無でした。指導中に幾度となく耳にする木工に関する専門用語も当然知らない単語ばかり。地球の裏側にでも来たかのような感覚で、適応できるまでが本当に大変でした。

技術だけではなく、オケクラフトの歴史も学びました。ここで初めてオケクラフトを語るうえで欠かせない両氏、秋岡芳夫氏、時松辰夫氏の名前を知りました。地元に住んでいても意外と知らないことは多いです。実家にいた頃はゲームと漫画に夢中で周りが見えていなかったせいかもしれませんが。

研修中は月に一度、3日間だけ時松先生に置戸町までお越しいただき、直接指導を受けました。技術ももちろん学びましたが、それよりも工芸を通じての町づくりや社会との関わりかた、といった理想や理念に関することのほうを多く教えていただいた気がします。ただ物を作るだけではなく、誰がどう使うのか、社会とどう関わっていくのか、それらを総括したのが「デザイン」。デザインという言葉はものすごく広義なのですね。

くつろ木ショップ
自宅の一角をショップとして利用。運営はもっぱら妻が担当している。 

2014年に独立し、当初は主に白樺を使った作品を作っていました。白樺の作品は今も主力ですが、最近はカツラやメジロカバを使った皿など作り始めました。さらに妻の協力を得て、小さいながらも自分の店を経営しております。店の切り盛りは全て妻に任せっきりで、私は隣の工房にずっとこもりっきりです。置戸のよい物、北海道のよい物をコンセプトにオケクラフト以外の物も販売しております。置戸町にお越しの際には、ぜひ「オケクラフトSHOPくつろ木」へお立ち寄りください。

今年で独立して5年目。まだ5年なのか、もう5年なのか。後輩たちも次々に独立しているので、「新人だから」や「後輩だから」という言い訳はもう通じません。しかし、まだまだできないことが多いと感じています。優秀な後輩たちに教えを乞いたいくらいです。

今後の目標は、自身の技術力アップとオケクラフトの知名度アップです。遠くから買いに来てくれるお客様がいらっしゃる反面、隣町でもオケクラフトを知らない方はいます。知名度アップの一環として、作品や作業風景の画像と動画を、SNS(Twitter、Facebook)で紹介しています。SNSを通じて知り合った方が展示会に来てくれたこともあります。口下手ですが、文字のやり取りは苦ではないので、SNSの普及は私にとって本当にありがたいものです。

今回の東京展示会には私も出向きますので、新たな人たちとリアルな形でつながることができればとても幸いです。

著者の紹介

佐々木さん

佐々木寛之(ささき・ひろゆき) 

木工職人・工房くつろ木代表

1976年北海道生まれ。岡山理科大学応用物理学科卒業後、札幌市内の靴修理店で勤務。2012年から2014年まで「オケクラフト作り手養成塾」で研修を受ける。2016年に工房とショップ「オケクラフトSHOPくつろ木」をオープン。白樺を使ったペン立てやワインクーラー、カツラやカバを使った小皿や深皿などを主に製作している。
ブログ:オケクラフトSHOPくつろ木

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