山村暮らしを体験するために20年前に置戸町に移住
私は、置戸町で、町から小さな年代物の家を借り、自給自足とはいかないものの、自然とともに暮らしています。それは、春には山菜や野草を摘み、初夏になれば、家庭菜園で無農薬の野菜を育てて食べ、自分で育てた大豆から味噌を作り、パンやうどんは粉から、と、あえて、その手間暇かかる時間を楽しむ生活です。そんな暮らしの中で、自然に感謝することを覚え、草木染めを続けています。
私が置戸に来たのは約20年前。町の地遊人制度(農業体験をしながら置戸町で1年間暮らせる制度。現在は終了)に応募し、山村暮らしを体験したいとやってきたのです。町から提供された住まいは、中心地から15キロ離れ、人里からも離れ、森林に囲まれた、野生のエゾシカやエゾリスが家の周りをウロチョロしている、まさに大自然の中でした。
そこは、それまでの人生で経験のない環境で、家の周りの雑草すら初めて見たようで新鮮に映り、魅力的で、毎日、子供みたいに、林の中や雑草の草原を歩き回っていました。そして、ある時、ふと、気がついたことがありました。ここに生えている、この草や木は、染料になるはずだ、って。染織を学んでいたので、草木染めは知っていいましたが、それまで当たり前のように化学染料で染めてテキスタイルの作品を製作し続けてきていました。でも、下水道もないような自然豊かな所で、化学染料を使うのには、ためらいがありました。その時、ここで染めるなら、草木染めだ、と本格的に染めてみようと思ったのです。
まずは、とにかく手当たり次第に、樹木と草の図鑑を片手に名前を調べては、染めて、記録していきました。すると、同じ葉っぱでも、春と秋では色が全然違ったり、同じ時期でも去年と今年とはまた色が違っていて、いくらデータをとっても参考程度にしかならない、草木染めの難しさと奥深さ、そして、上手くいかないからこその面白さを知ることになるのです。また、置戸の春夏秋冬は、本州とは大違いなので、季節の移り変わりに慣れ、また来年、また来年と、とにかく年を重ねて経験するのが大事だと、いつしか20年が過ぎてしまいました。
身近な材料を染め物に生かし、四季を楽しむ
現在は、引っ越して、たまにキツネを見かけるくらいの、以前と比べるとかなり人里に住んでいます。ここでは、人目もあるのでちょっと遠慮がちになり、近頃すっかり、染料となる材料をひろって染め、が多くなりました。
春、雪が融けると、冬の風雪に耐えられず地面に落ちた枝が見つかります。折れた枝からは新芽が出ていたりもします。まだ生きている、でもここで枯れていくなら、とひろって帰り、染めるのです。夏になると、除草車が走り立派に育った道端の雑草を刈って行きます。空き地の雑草も伸びたら誰かがきれいに刈ります。その刈り取られて横たわっている草を、種類毎にひろい集めては染めます。秋には、オニグルミの実が地面に落ちます。まだ青いままの実をひろいたいので、夏のうちから実のなり具合はチェックして、落ち始めたらリスに先を越されないように、私も木の下に通います。寒くなり、エゾヤマザクラの葉が赤く色づいた頃、風が強く吹く日には、落ちたての葉を一日に何度も拾いに行くのです。
そんなとき、このまま土にかえるのもいいけれど、いい色になって、きれいねーってほめてもらおうよ、と心の中で語りかけています。それから、あなたのすてきな色をみせてくださいな、とお願いします。草木染めをするときは、そんな謙虚な気持ちでありたいと思うのです。そして、色がすべてじゃない、その植物がもっている目には見えないエキスがしっかししみこんでいる、そこにも価値はあるのではないかと、おおげさにいうと、その草や木の魂が、布の中に生き続けていくような、そんな気がするのです。
山岡晴美さんが講師をつとめる草木染め教室を6月17日(日)に開催します。詳細は「オケクラフト展 in Tokyo 2018」告知ページへ。
著者の紹介
山岡晴美(やまおか・はるみ)
造形作家
美術系大学卒業後、1988年よりテキスタイルや造形作品の制作を始める。1996年に山村暮らし体験制度「地遊人」として千葉県から置戸町に移住。町内の公民館教室や、北見市の道新文化センターで、染め織りフェルトなどの講習指導を行う。1997年よりオケクラフトセンター森林工芸館で作品を常設販売。また同館で定期的に展示会・講習会を開催している。