遅筆のためブログ更新が大変遅くなってしまいました。この間、通常作業に加えての新作の準備に時間がかかってしまいました。また、うれしいことに剪定したオリーブとビワの生木をご近所からいただいたため、製材などの対応にも追われていました。(材木屋さん等で一般に流通している材木は十分乾燥されていて状態も安定していますが、生木についてはヒビが入る前にある程度加工しています)
木のスプーンを作るためにはいろいろなアプローチがあると思います。丸ノミや糸鋸などを使い、すべての作業を手で作る方もいらっしゃいますね。私の場合は、半分を機械で、半分を手で作るというやり方です。機械で作れることは機械を工夫して使い、手だけではできないものを作る。機械を手道具のように使いこなし、機械でできないことは手で仕上げる。師から教わった手法です。こうすることで大量生産品にはない手仕事の味わいを残しながら、価格を抑えることができます。
私が主に使っている工作機械は以下の3種類です。
1.帯鋸(バンドソー)
木材を切断し目的の形にするため帯鋸は必要不可欠です。木取りはすべての作業のスタートです。この帯鋸は比較的古い型になりますが、性能は申し分なく、使用できています。
木取りに際しては思案のしどころで、どう木取りすれば木材の無駄を出さないですむか時間をかけて決めます。スプーンは小さく、強度やねじれなどは板目でも柾目でも大きな違いはないため、私は板目も柾目も両方取り入れるようにしています。同じ木でも板目と柾目では表情が異なり、どちらも魅力的です。また、木取りすることによってどうしても端材が大量に出ます。それを捨てるのももったいないので、スプーン以外の小物として活かすため保管し、現在そちらも試作中です。
2.ロクロ機械と治具
ロクロ機械に治具を取り付けてスプーンの池を削ります。治具とは、作業の治まりがいいように工夫した道具のことです。治具づくりができれば一人前と感じています。スプーンの様々なサイズの種類に対応するため、サイズによって治具を揃えます。現在のところ私は木製の治具にサンドペーパーを取り付けて池を削っていますが、鋼製の治具やボール盤などの別の機械を使うことにより、サンドペーパーより正確に量産できるため、近々新しいやり方も取り入れる予定です。
3.ベルトサンダー(ベルトグラインダー)
ベルトサンダーを使って最終のスプーンの形に加工します。スプーンの厚みや形を調整し、持ちやすく使いやすい形にしていきます。手を押したり引いたりして狙い通りの形に仕上げます。
木工の研修生になる前、私はパソコンや書類での仕事が多かったためか、研修当初、「またまだ2次元の世界にいるね」と師匠から注意を受けたことがありました。2次元の世界とはなんだろうと考えると、私がつくったものはどこか平面的で立体感がありませんでした。スプーンとしての魅力に欠けていました。ある面では、今回ご紹介した機械をそろえれば最低限、木のスプーンを量産できるということが私には新鮮であり驚きでした。切られた木は燃料や建材など生活に必要な様々な用途に使われますが、美意識のなかで別のものになり、木のスプーンになり、暮らしのなかでちょっとでも幸せを感じるものになり得るということがうれしくてワクワクします。
今回は僭越ながら、最も素人の感覚に近い作り手として工作機械を紹介させていただきました。趣味で木工をしている方のほうがもっと多くの機械や道具をそろえておられるかもしれません。それほど私の工房は簡素だと思います。それでもまだまだ無駄な作業が多いように感じています。一つの道具で一つのものだけをつくるのではなく、一つの道具で多くの種類のものをこれからも生み出していきたいと考えています。
著者の紹介
岡本有紀子(おかもと・ゆきこ)
木工職人 木のスプーンゆきデザイン工房代表
岡山県生まれ。南九州大学環境造園学部卒業後、NPO法人での勤務などを経て、木工デザイナーの時松辰夫氏に師事。2015年に大分県湯布院のアトリエときデザイン研究所の研修生となり、木工とデザインの基礎を学ぶ。2016年に地元の岡山で工房を開設。奥山や里山の身近な木でスプーンなどのカトラリーを中心に製作している。
木のスプーン ゆきデザイン工房Facebook
※岡本さんが白木のスプーンに使用している木工塗料は「木固めエース普及会オンラインショップ」でご購入できます。