アトリエときでの研修を終えた私は、実家のある岡山市に戻り、その年の2016年12月に工房をかまえました。たまたま実家の庭に、使われていない納屋があったので、そこを改装することにしました。
自己資金だけでは工事費が足りなかったため、補助金や融資制度を調べ、市役所の担当課や商工会などへ回り情報を集めました。小さな工房ですが、長く続けることを考えると、設備をしっかりしたものにするため、金融機関からお金を借りる必要がありました。
正直なところ、借金はなるべくしたくなかったのですが、借金も財産と聞き、融資の申請をすることにしました。そう決めてよかったと今は考えています。借金したおかげで、私はこの仕事でやっていくと腹をくくることができました。月々の返済をしなければならないことがエネルギーの源になっている気がします。
工房には大型の工作機械もあります。周囲は住宅のため、夜間での作業を考えると、壁や天井に防音シートを貼り、防音対策はしっかりしました。改装費や機械以外に、小物や消耗品に費用が予想以上にかさみました。何もないところから始めたので、椅子や箒(ほうき)など細々したものなどチリも積もればかなりまとまった金額になり、ちょっと驚きました。
木工の道具をそろえる際は、時松辰夫先生の著書『山村クラフトのすすめ』(社団法人全国林業改良普及協会)は必読書でした。作業に使用する小物類を一覧表にまとめているページがあり、とても助かりました。
準備のなかで一番手間取ったのは、スプレー塗装に使うエアホースの配管です。塗装作業に欠かせない設備です。
「エアコンプレッサー(空気圧縮機)」→「トランスフォーマー(コンプレッサーから来るエアを調整する減圧弁)」→「スプレーガン」の各機械をエアホースでつなげるのですが、ジョイントの仕方がわからなくて困りました。素人に出来るかどうかとても不安でした。かといって業者に頼むお金は残っていませんでした。するりとした手触り、水に強く長年の使用に耐えうることなどを考えると、スプレーガンでの塗装をしない選択肢はありませんでした。
必要に迫られ手探りしながら自分で、エアホースの配管を行いました。どこに頼ればいいのかわからなかったので、最初に向かったのは近所の金物屋さんです。エアホースやジョイント金具を取り扱っている金物屋さんが市内に2カ所あり、教えてもおうとたずねました。どちらからもわからないという返事でした。
次に、ネットで塗装機器を扱っている業者さんにメールして教えてもらおうと考えました。これはうまく行きました。ジョイント金具のことをカプラと呼ぶことや、カプラにもナット型など種類があること、オスとメスがあることなど、説明を受けながらやりとりし商品を購入すると、こちらが冷やかしではないということが先方にも伝わり、親切に教えてもらうことができました。
1カ所だけの情報では不安だったので、念のためメーカーにもメールしました。トランスフォーマーとスプレーガンのメーカーにメールし、コンプレッサーの規格や配置などを伝え、間違いがないか確認しました。先方からすると迷惑な問い合わせだったと思いますが、丁寧に答えてもらうことができました。
各所の協力を受け、エア配管が完成したときはうれしかったです。これで本格的に稼働できるようになって一人前になれたような気がしました。
次回のブログでは工房開設のために購入した、スプーン作り関連の工具類をご紹介します。
著者の紹介
岡本有紀子(おかもと・ゆきこ)
木工職人 木のスプーンゆきデザイン工房代表
岡山県生まれ。南九州大学環境造園学部卒業後、NPO法人での勤務などを経て、木工デザイナーの時松辰夫氏に師事。2015年に大分県湯布院のアトリエときデザイン研究所の研修生となり、木工とデザインの基礎を学ぶ。2016年に地元の岡山で工房を開設。奥山や里山の身近な木でスプーンなどのカトラリーを中心に製作している。
木のスプーン ゆきデザイン工房Facebook
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