
今回の旅程は、ご覧の通り。かなりの過密スケジュールです。社長からスケジュール連絡があったときは、1日でこんなに回れるのだろうかと心配になりましたが、社長曰く「問題ない」とのこと。その自信に圧倒されつつも、どんな旅になるのだろうかと出発前から気持ちは盛り上がっていました。
5月27日(水)
09:00 羽田空港発
13:30 大分県立美術館
15:30 湯布院町の工房めぐり(3軒)
18:00 レンタカーで熊本へ移動
20:00 熊本市内で夕食
5月28日(木)
10:00 熊本県伝統工芸館
11:30 工芸館職員の皆さんと昼食
13:30 熊本国際民藝館
16:00 阿蘇熊本空港発
1日目は大分県立美術館と湯布院町の工房巡りへ

大分空港に降り立つ直前、アナウンスされたのは『大分ハローキティ空港』なる名称。予期せぬサンリオワールドに驚きながらも、深入りせずレンタカーへ乗車。大分県立美術館へ向かいました。途中、北九州発祥の和風ファミリーレストラン「資さん(すけさん)うどん」で腹ごしらえをしました。
(後日調べてみると、大分県速見郡日出町にサンリオのテーマパーク「ハーモニーランド」がありました。大阪万博にあわせて国内外から誘客を図るため、期間限定で「大分ハローキティ空港」の愛称が使われたようです。)
大分県立美術館にて時松辰夫さんの特別展示を鑑賞

大分県立美術館では、特集展示「時松辰夫/暮らし・自然へのまなざし」(開催期間:2026年4月4日〜5月31日)を観賞しました。
時松辰夫さんは、モノ・モノ創設者の秋岡芳夫(工業デザイナー)と二人三脚で木工による地域活性プロジェクトを推進したクラフトマンデザイナーです。時松さんについては、過去の記事『「山村クラフト」伝道師・時松辰夫インタビュー』もぜひご覧ください。
今回の展示は、「暮らし」や「自然へのまなざし」といったテーマのもと、同館が選定した様々な作者による日本画や油絵、竹細工などの作品群とともに、時松さんのクラフト作品が展示されており、非常に見応えのある内容でした。身近な食べ物を描いた日本画や、自然の中での喫茶の楽しみを描いた豊後南画(ぶんごなんが)などを鑑賞していると、昔の人々も私と同じように何気ない日常を愛おしみ、形に残したいという想いを抱いていたのだと感じ、温かい気持ちになりました。

時松さんの作品は、「日田産業工芸試験所」時代の試作品から、後年のクラフト作品までの歩みを追うように展示されていました。私が見たことのある時松さんの作品は、自然の木の表情をそのまま生かしたデザインでしたが、試験所勤務時代に制作されたものには、上の写真のような実験的なデザインもあり、その形や色がとても新鮮に感じられました。

今回は同館学芸員の𠮷峰拡さんが特別に館内を案内してくださり、作品について解説いただきました。普段は何気なく読んでいる解説のキャプションですが、作品の素材や年代に関することなど、深く調査を行い裏を取ってからすべて書かれていることを知り、感銘を受けました。また、会場内には「秋岡芳夫と時松辰夫」とタイトルのついたキャプションもありました。二人の関係や、モノ・モノとの過去の深い関わりについても綴られており、今のモノ・モノスタッフの一員として思わず背筋の伸びる思いでした。
学芸員・𠮷峰さんによる記事を本サイトで近日公開予定です。今回の展示の裏側について綴っていただきました。ぜひご覧ください。
工房めぐり① 匙屋

大分県立美術館をあとにし、次に向かったのは湯布院町。竹と木のカトラリーショップ「匙屋(さじや)」を訪れました。自然の中に佇む素敵なお店の裏手には、作り手である甲斐のぶおさんの工房があります。今回は特別に工房の中までご案内いただき、制作風景の一端を間近で拝見することができました。

制作中のさかなフォークを手に取りながら説明してくださった甲斐さん。秋岡さんも言っていたように、「制作に使う道具は、作るものに合わせて自作する」とのお話でした。ちなみにモノ・モノでは、オンラインショップ「低座の椅子と暮らしの道具店」の家具購入者アンケートはがきのプレゼント品として甲斐さんのバターナイフをお届けしています。
工房めぐり② 箸屋一膳

続いて向かったのは、時松さんの弟子である西原慎一郎さんが運営する「箸屋一膳(はしやいちぜん)」。湯布院町内に2店舗あるうち、今回伺ったのは工房直営店です。サクラやコナラなど、身近な里山の木々を使い、一本一本丁寧にお箸を作られています。

店内に並ぶ箸は、木の種類ごとに花言葉の解説付きで、贈り物にぴったりです。私は自分用に箸置きを購入しました。職人の方のご案内のもと、お店の裏にある工房も拝見させていただくと、そこには多種多様な木材がどっさり積み上げられていました。素材により乾燥にかかる時間などが異なるため、それぞれに合わせて作業を調整するとの説明に、ひとつの箸作りの背景にある丁寧な仕事の積み重ねを感じました。
工房めぐり③ アトリエとき

大分の旅の締めくくりに訪れたのは、「アトリエとき」。時松辰夫さんが遺した、工房兼クラフトショップです。現在はご親族の時松英樹さん・相良雅子さんが、その大切な場所を引き継いで、時松デザインの木工品の販売を続けられています。

店内には、北海道置戸町や岩手県洋野町など、時松さんが指導した地域やお弟子さんたちの木の器が所狭しと並んでいました。壁に掲げられた工房での時松さんの写真やその業績が書かれた新聞記事からも時松さんが偉大なクラフトマンであったことが伝わってきます。

大分での充実した行程を終え、熊本へ向かいました。当日は霧が濃く、当初予定していた九重横断ルートは断念。福岡方面に大きく迂回しての長距離ドライブとなりました。
夕食は「民藝酒房 肥後路」で、熊本の美味しい郷土料理を地元の陶芸家の器でいただきました。手元の器を眺めながら、今日のことや翌日への期待をあれこれ語り合っていると、あっという間に時間が過ぎていく夜となりました。
2日目は熊本県伝統工芸館と熊本国際民藝館へ

2日目の午前は、2026年3月にリニューアルした「熊本県伝統工芸館」を訪れました。同館訪問の様子については、過去のブログ記事『熊本県伝統工芸館のいま』でレポートしています。ぜひご一読ください。

お昼ごはんは、工芸館に隣接するKKRホテル熊本内の「日本料理まつり」へ。運ばれてきた巨大わっぱ弁当箱は熊本産。期待を膨らませて蓋を開けると、華やかな季節のお料理の数々が目を楽しませてくれました。熊本城を間近に臨む絶好のロケーションの中、同館の職員の方々とも交流を深めつつ、美味しく楽しいひとときを過ごしました。

食後は工芸館に戻り、1階に新しくできたカフェ「COFFEE KADO」でコーヒータイム。ホットコーヒーを注文すると好きなカップを選べるとのことで、私は熊本の「小代焼」を選びました。

一息ついた後は「熊本国際民藝館」へ向かいました。館長で元熊本県伝統工芸館職員の坂本尚文さんの車に同乗させていただき、目的地までの約20分間、生前の秋岡さんとのエピソードを伺う贅沢なひとときを過ごしました。「秋岡さんはチョコレートが好きだった」など当時の何気ないお話を伺いながら、私も秋岡さんと生前に直接お話してみたかったなと思い今回の旅の意義をあらためて感じる時間でした。

熊本国際民藝館は初代館長の外村吉之介が世界中を巡って集めたコレクションが基礎となっています。全国にある民藝館の中でも、館名に「国際」と入っている場所は稀だそうです。2階の展示エリアでは、世界各国の玩具と熊本の伝統玩具も同じ空間に並んでいました。異なる背景を持つもの同士が、自然に馴染んで見えるのが不思議です。時代や場所を超えて、人の心を和ませてきたという共通点があるからかもしれません。
研修旅行を終えて
始まる前は、この過密な旅程を完遂できるか不安でしたが、実際にはレンタカーでの移動が多く東京に戻ってきてもとくに疲れが残った感じはありませんでした。道中は車内BGMを変えて楽しむ余裕がありました。ずっと運転していた社長は流石に疲れたのではないかと思い東京に帰ってから聞いてみましたが、「出張先でいつもこのくらいはこなしている」とのこと。余裕の表情に驚きです。
時間の都合により足早に通り過ぎることとなった大分県立美術館内のショップや、車の窓から湯けむりだけ見えた湯布院の温泉、工芸館の側から眺めるにとどまった熊本城などは、いつかまた個人的に訪れてゆっくり過ごしてみたいと思います。
普段、東京・中野のショップで仕事をしていると、どうしても秋岡芳夫とモノ・モノという限られた枠組みのなかだけで物事を考えてしまいがちです。しかし、大分・熊本を巡った今回の研修旅行を通じて改めて実感したのは、秋岡さんが、工芸館の設立や地域の活性化などを通じて出会ってきた人々や、それを引き継いで活動している人々など、全国に志を同じくする仲間が今もいるということ。このつながりを実感できただけで、なんだか百人力になった気分です。
(スタッフ・東瀬)







