
熊本県伝統工芸館が生まれた背景
熊本県伝統工芸館は、「手で観る工芸館」「誂えがきく工芸館」「市の立つ工芸館」を基本理念として、1982年(昭和57)8月に熊本城前にオープンしました。
当時、熊本県には、国の伝産法にもとづく産地指定品はなく、県が独自に「熊本県伝統的工芸品」の指定制度を設け、県内の伝統工芸の需要開拓や振興に取り組むことになり、その生活文化形成の拠点として、熊本県伝統工芸館が建設されることになりました。
3つの基本理念のもと、同館は、県内の陶磁器、木工、金工、竹工芸、染織など、さまざまなジャンルの工芸振興を目的に計画が進められました。当時、公的機関が工芸品の流通にも関わるのは全国的にめずらしいことでした。
外国人観光客を意識し、ショップスペースが倍以上の広さに
開館から40年余りの歳月を経て、大規模な改修工事を終えた熊本県伝統工芸館を訪ねました。私は今回が初めての訪問でしたので、改修前の姿を直接知るわけではありませんが、館内は見違えるほど変化しているようです。
冒頭の写真の奥に見えるレンガ色の建物が、熊本県伝統工芸館です。設計は、熊本の出身で秋岡芳夫とも交流があった建築家の菊竹清訓(きくたけきよのり)氏。外観は手を入れず、メンテナンスだけを行ってあるそう。

伝統工芸館は、熊本城の眼の前にある贅沢な立地。エントランス前では、熊本城を背景に、くまモンと記念撮影できます。当日は小雨が降る天気でしたが、早朝から観光客でにぎわっていました。

館内に入ってまず目に飛び込んでくるのは、特別展示スペース。展示の内容は、数ヶ月ごとに変わります。当日は、熊本の竹工家・宮﨑珠太郎氏の作品がお出迎え。

1階は、企画展示やショップがメイン。写真手前の「特別展示スペース」には、熊本ゆかりの日本工芸会員による陶芸作品が並んでいました。奥に見えるのは「工芸ショップ匠」。およそ500平米の広さに、地元の工芸品や民芸品、クラフトが展示即売されています。

1階の「イベント展示販売スペース」。当日は「宮崎珠太郎 竹のしごと」が催されていました。宮崎氏は竹工芸で有名な「別府クラフト」の育ての親。過去の主要作品が一堂に並んだ様子は見応え十分でした。

1階奥のスペースには工芸関連書籍を並べた「学べるコーナー」がありました。本棚の下には、秋岡芳夫がプロデュースした「匹見の101種類の木の椀」が、手に触れられる形で展示されていました。小さい展示でしたが、「手で観る工芸館」の理念をここで感じ取ることができました。

「学べるコーナー」の隣にあるのは様々な工芸のワークショップを行うための「工房」が併設されています。壁が全面ガラス張りで開放感があり、奥に見える年季の入った作業台は、リニューアル前から使用しているものだそうです。

大きなシャンデリアは、造形家・伊藤隆道氏のデザイン。元々は和紙の笠が付いていましたが、熊本地震で破損。しばらく笠のない状態で使用されていたそうですが、今回の改装で、水俣浮浪雲工房・金刺潤平氏による手漉き和紙の新しい笠に修復されていました。

リニューアル前、2階には郷土の生活用品がところ狭しと並べられていましたが、現在は多目的スペースへ変貌。

かつて展示されていた資料品は、ガラス張りの収蔵庫へ。特別にその中へ案内してもらうと、ご覧のように「お宝の山」が。今後の企画展示が楽しみです。

建物裏手にあるテラス席は、観光客にまだ知られていない穴場スポット。1階の「COFFEE KADO」でコーヒーをテイクアウトすると、緑の中でゆっくりとくつろげます。

案内してくださった池田昌一郎さん(熊本県伝統工芸館・工芸振興班主任主事、学芸員)は、ショップ勤務を経て、現在は館内の展示企画を一手に引き受けています。
「手で観る工芸館」「誂えがきく工芸館」という理念は、開館から43年が経ち、いま変化の時を迎えているようです。見た目は大きく変わったものの、「年間の企画展示やワークショップを通じて、熊本県伝統工芸館の開館当初のコンセプトや秋岡芳夫の考えを伝えていきたい」と池田さんはおっしゃっていました。
一方で、「市が立つ工芸館」という理念は、外国人観光客の急増によって、ますます重みが増していることもわかりました。今後は国際交流の場としての役割に期待が高まりそうです。
主任の池田昌一郎さん。貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
(スタッフ・東瀬)






