
狭い部屋を広々と使うために、昔は一室を多目的に使っていた、そして、その部屋で機能的に働いていた道具は、動く道具、つまり「動具」でした。簡単にかたづけられるのが「いい道具」だったのです。たんすもお膳も夜具もみんな「動具」だったといえます。
日本人の大好きな「襖(ふすま)」を外国の建築家が見て「スライディング・ドアだ」といいましたが、襖はドアではない。壁、「ウォール」なのです。動く壁、取り外し可能な壁なのです。襖は夏になったら、取り払ってしまうこともできる。つまり「動く壁」なのだといったら、外国人が驚いたという話があります。襖も動具です。
「畳」もそうです。畳というのはもともとは「畳(たた)む」という動詞からきている道具名です。畳むというのは重ねて置くということ。畳はふだんは、部屋の隅にたたんで積み上げておき、「お客さんが大勢来る」ときなどに「板の間」に敷きつめて使う。つまり、運んで、置いて、用がすんだら、また、たたんでおくものだった。つまり「動具」だったのです。
「屏風(びょうぶ)」もそうです。これも折りたたむ動具です。夏は折りたたんで蔵のなかにしまっておき、冬に蔵から出してくる。日本の伝統的な道具の多くはこうした動具だったのです。
和だんすも据えっぱなしの洋風のものとはまったく違います。動かすことを前提に、三段重ねにしてあるし、軽くするために桐を使っています。 桐だんすはまさに動具の典型。
昔のダイニング・テーブルの「卓袱台(ちゃぶだい)」は、四角よりも丸が主流でした。なぜかというと、丸ければ人数が限定されず、何人家族であっても、みんなで一緒にテーブルを囲むことができますし、お客さまが何人こようと、ひとつのテーブルですむことになります。
さらに、丸いテーブルの足を折りたためるようにすれば、自転車や自動車のタイヤのように転がして動かすことができる。こうしておけば、子供でも運べます。動具機能のいい、丸型がはやることになりました。
卓袱台がはやったのは明治以降です。それまでは、こういうダイニングテーブル式のものはほとんど使っていません。
一人ひとつの小さなお膳、「身巾もの」のお膳を使っていたのです。その身巾もののお膳も動具です。台所で料理を盛りつけて、料理と食器とテーブルを一緒に部屋に持ち運びます。しかも、身巾ものになっていますから、廊下を通っても、すれ違ってもぶつからない。全体も小さくて軽くて、しかも、必要な面積を持っていたわけです。身巾ものであると同時に、あれも立派な動具型のテーブルだったのです。
そうした流れのなかから考えられたのが「卓袱台」ですから、置きっぱなしの座卓風にしないで、足は折りたたむことができるようにデザインしてありますし、たたんだら台所などへ戻すものだったのです。
「座布団」も、動具型の椅子でした。いらないときには押し入れにしまっておく動具だったわけです。いまは座布団のかわりに、三点ないし五点セットの「応接セット」をデンと狭い部屋に置いてお客さんの接待をします。いまの応接セットは動具ではありません。
いちばん問題なのは「寝具」が動具ではなくなってしまったことです。ベッドになってしまったので、場所をふさぎ、ベッドの置いてある部屋は昼間は使いにくい。 お客さんを通すわけにもいかない。昔の「ベッドルーム」は、畳の部屋で、昼間はそこで食事をしたり、お客さんと話をしたり、そして寝るときに突然、押し入れのなかから動具としての夜具が出て、そのとき「寝室」に早変わりしました。そして、朝になってたたんで、また押し入れにかたづける。布団も、動具だったわけです。
このように、家に備えつける家具はすべからく(原文ママ)動具であったほうがいい、といえるでしょう。
考えてみれば、自動車も動具の最たるものではないかと思います。
日本人は道具を動かしながら上手に使い、上手に開発するのが非常に得意だったわけです。だから、日本の自動車が小型でありながら、居住空間は広く、インテリアが豪華で、よくあのようにコンパクトでリラックスできる機能を押しこんだものだと、外国人にびっくりされるのです。
そんなことは日本人にとっては朝飯前のこと。つまり、車も動具であるという感性を持っているからです。車を単なる移動するメカニズムではなく、動具性の強い道具にしたというのは、やはり日本人特有の感性だったのです。
出典元・著作の紹介
『新和風のすすめ』
モノ・モノ| 単行本 | 2023
工業デザイナーの秋岡芳夫が亡くなる7年前の1989年に上梓した書籍『新和風のすすめ』を文庫本としてモノ・モノが復刊しました。〝消費者をやめて愛用者になろう〟というスローガンにはじまり、〝新和風〟という暮らし方の提案にいたるまで、秋岡芳夫のメッセージが凝縮されています。
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※掲載箇所:「新和風のすすめ」 P124-127







