「提案ー関係のデザインを、会議デザインシステムで」

モノ・モノの前身となった「104会議室」について、秋岡芳夫が1971年にデザイン誌『工芸ニュース』に寄稿した原稿のアーカイブ。「デザイナーの提案活動の無駄を省くためにも、デザイナーの主催する会議室を持とう」という提案のもと、生産的な会議のあり方が詳細に検討されています。

文: 秋岡芳夫(工業デザイナー)

≪デザイン会議室での会議≫

現在会議室で進んでいるワークをテーマと参加している職能について紹介しておくと、

1)MONO・MONOプロジェクトー構成メンバー・IDデザイン事務所のチーフ達。クラフトマン達。流通パイプの設計に腐心しているデザイナー。商工マン。
いまはやりの言葉でいうプロジェクトチームである。テーマとして、①物と物の関係のデザインの有効性の確認。②物と物との関係のデザイン試案作成。③モノモノスライドの作製。ープロジェクトの内容をスライド視覚的に固定し、デザイナー、商社、企業、官公庁に見せるためのもの。④商品構成と売場構成の試案作製。⑤地域産業再開発調査。⑥出版ー市民教育をねらいとしたもの、単行本。定期刊行物。記事投稿。ノースポンサー活動。
2)中小企業(スチール製品のメーカー、流通パイプを持っていない。)と文具、雑貨を扱う商社との合同製品開発会議。
3)商社サイドでの新製品群開発業務の外注受注。ー会議構成メンバー、商社開発部員、商社所属デザイナー、IDデザイナー、クラフトデザイナー、プロダクション代表者、商工開発技術者、地域産業代表者随時参画。
4)出版会社の企業内容転換のためのプロジェクト。情報産業機器類の開発のための組織づくり。構成メンバー。出版会社から、開発担当部員、プロモーター、ディレクター、教育者、技術士、商工開発技術者、デザイナー。
5)観光資源開発技術を再チェックする委員会。IDデザイナーと観光開発事業会社との協同作業。地域行政代表者参画。

●以上のプロジェクトおよび会議デザインチームは、作業完了後すべて解散する。(すでに解散したものもある。)
●各プロジェクトは、創案、提案、決定の作業の外、製品化ないし組織運営開始後の管理についても適切な管理組織案を提示することがある。
●会議の運営はディレクター方式ですすめる。
●提案を主として行なう場合はプロモーターを置く。
●創案を主とした場合はデザイナーが会議のディレクターになるようにする。
●決定会議の議長はプロジェクトのリーダーがこれにあたる。決定すべき内容により、議長は会議決定者を指令して決定に参加させる。企業化を目標とした決定には企業の責任者を必ず参画させる。

従来の直線的物づくりに対し、円型の、サーキットの完結した物づくりのパターンを示している。円の中心にデザイン会議を置きたいと思う。このデザイン会議を支えるものは市民以外にあり得ない。
従来の直線的物づくりに対し、円型の、サーキットの完結した物づくりのパターンを示している。円の中心にデザイン会議を置きたいと思う。このデザイン会議を支えるものは市民以外にあり得ない。

≪デザイン会議室の設備≫

会議室には前記のように会議、宿泊、飲食などに必要な生活用品について十二分の配慮を必要とする。だが、それ以上に重要な設備として会議内容を充実させるために、各種の機器類が工されなければならないと思う。

●テープレコーダー

通常の会議の席では、会議の主催者が会議内容を記録するのが普通だが、この会議室では会議に参画した人間が、めいめいに随時録音できるようにする。したがってレコーダーは複数が必要になる。消耗品であるカセットテープは会議室に常備し、その費用は会議室に含まれるものとして処理する。会議中は参加者はもっぱら提案創案に専念し決してメモを取ってはならない。音声で記録できる会議内容はテープで録音し、それぞれ自社に持ち帰り、あらためて聞き直すか、あるいは会議に参加しなかった者に聞いてもらうことで、会議進行のいきさつや細かい発言のニューアンスや、全体の雰囲気を伝えることができるはずである。会議の議決内容などのメモは後に述べるように会議メモが入手できるからペンを使ってノートをとる必要はない。小型のカセット方式の自動録音、マイク自蔵タイプがよい。マイクは無指向性で、バッテリイ駆動もできるのがよい。

●ゼロックスまたは電子コピー

会議のメモは会議室づきの会議助手がメモを取る。そのメモは会議完了までの間に複写して、会議出席者全員に配布するようにする。ゼロックスまたは電子コピーがよい。会議の席に提出された写真、現物、本、カタログなどの複写も可能だからである。できることならば電子コピーは、縮尺複写の可能な物がよいと思う。任意提出された資料をきめられたサイズに縮小または拡大することで会議資料の整理が便利になるからである。

●黒板

黒板は必らず2面以上設備する必要がある。一つの黒板には順不同で提案される提案内容を文字や絵で、順不同に書きならべるのに用い、次の1枚はランダムに提案された内容をその提案を並行して整理して書き直しながら、提案をまとめたり、問題のありかたをつきとめるための物である。黒板に書かれた内容は消し去る前にすべてポラロイドで撮影してから消すようにする。ポラロイドに記録された文字や絵や図面は、会議用紙の一部に貼付して、ゼロックスで複写して配布する。(もちろんその日の会議終了までに……)ポラロイドで撮影しゼロックスで複写することを考慮に入れた場合、黒板は白板の方が有利である。(ゼロックスなどの電子複写装置の欠点は黒い面が複写の場合黒く出ないことである。)また黒板はその縦横の寸法比を4:5にして置く必要がある。それはポラロイドの画面が4:5のプロポーションだからである。また撮影の便のために、黒板には照明をとりつけて黒板面を平均の照度に保つ必要がある。ポラロイドカメラはあらまじめ定められた位置にパンタグラフで天井に固定しておけば、撮影の際会議を中断する心配がない。黒板を白板にすることの利点はいま一つある。白板にプロジェクターで絵や図面を投写しながら、修正個所をかき足すことで絵の描けない会議参加者にも、絵を使って自分の案を述べることが可能になるからである。しかし黒板の一番重要な役目とその附属品は、すべての人の発言を、抽象的な言葉の発言内容を、即刻、絵やマンガで黒板にかける表現技術者であろう。絵のかけない営業マンから具体的な商品の形の注文を聞き出すのには黒板とマンガが一番いい。同じ案でも図面で現わすと堅くるしい感じがして次の人の発言を封じてしまう恐れがあるから、提案された内容はできるだけマンガ風に描くことが肝じんだ。目の前で皆の意見を即座にマンガで表現できる人間が会議室には絶対に必要である。

●ポラロイドカメラ

ポラロイドカメラは2台必要だ。1台には白黒のフィルムを、もう1台にはカラーを常に入れて置く。色彩で黒板に書いた表とか、色のサンプルには目下のところポラロイドカラーで記録し配布するしか方法がない。発色も十分だし経費もばかにならないけれど止むを得ない。もし色に関する資料の完全な写真記録がほしい場合、時間があるならば、35ミリのカラーで記録するのがいいと思う。ただし自家現像が難しいから、機密度の高い資料の複写には使えない。ポラロイドはタイプ250などの自動露出のもので接写のできるものがいい。(接写は小さな現物資料を写真で複数に撮影し配布するとき、よく用いることがある。)

●プロジェクターとスクリーン

 プロジェクターはできることなら3台あるとよい。マルチ投映の必要があるからである。デザイナーのように視覚的な記憶の訓練のできた人間ばかりならその必要はないのだが……たとえば室内の椅子の問題を討議するために、その椅子をおいてある部屋の写真と、その椅子の全体の写真と、その部分の構造を示す写真があったとする。そうした場合、われわれの仲間同志なら、部屋→椅子全体→部分と次々にスライドを投影しながらでも議論ができるのだけれど、造型訓練を受けていない人達にはそれは至難の業なのだ。もしその椅子と部屋の関係を、その椅子の部分と全体の関係を討議したいのなら、その3枚のスライドは同時に3つのスクリーンに投影されなければならない。またこの3つのスライドがあれば、ある提案をスライドで提案するときに、説明の文章を左のプロジェクターで、中央のスクリーンには実物を、また右のプロジェクターには比較すべき他社の製品をといった具合に極めて効果的な提案ができるはずである。プロジェクターは十分な風量のファンを自蔵したワット数の大きいものがよい。日中明るい室内でデイライトスクリーンと併用することが多いからである。

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