「提案ー関係のデザインを、会議デザインシステムで」

モノ・モノの前身となった「104会議室」について、秋岡芳夫が1971年にデザイン誌『工芸ニュース』に寄稿した原稿のアーカイブ。「デザイナーの提案活動の無駄を省くためにも、デザイナーの主催する会議室を持とう」という提案のもと、生産的な会議のあり方が詳細に検討されています。

文: 秋岡芳夫(工業デザイナー)

≪会議室をデザインする≫

私の計画では、メーカーの社長や設計者や、開発の人達がここにきてくれるはずであった。まっさきに来てもらいたかったのはデパートの開発や仕入れの人達、そして商事会社の人達だったのに、まず集まったのは同業のデザイナー達や先生や、民芸協会の人やクラフトマン達であった。

会議室に雰囲気を……

会議室と聞くと大多数の人びとは、どこの会社にも必ずある、あのガランとした、主のいない感じの大部屋を想いだすことだろう。折りたたみの椅子と机が中学校の教室のように並んでいて、アルミのペコペコの灰皿が置いてあって、小さな黒板のある、あの部屋を。半分居眠りをしながら照れ隠しにメモを取るあの風景を。あるいは人によっては、ボーイがオレンジジュースとケーキを運んでくる、ホンコンフラワーの一輪差しのある、白いテーブルクロスのホテルの貸会議室を連想するかもしれない。会議のありさまを、折角本題に議論が集中し始めたと思ったら、時間ですのでこのへんで、どうもご苦労様でしたと、結論も出ずじまいの通例の会議の様子を想像するかもしれない。

泊まりこめる会議室に……

私は私の会議室にこんな道具だてをした。
一番先に寝具を5人分揃えた。和室が二部屋あるから、そこへ客を泊めようというわけである。泊りこみ覚悟で会議をやるつもりなのである。あわせて、地方産業からの会議参加の宿泊の便も計ろうというわけである。

茶は玉露と決めた。急須は黒泥、朱泥、青泥を使うことにした。湯呑はずいぶん探したがいいのがない。古い伊万里のそば猪口にした。グラスは全部本クリスタルにし、箸は輪島の石目塗にした。これならそばも滑らない。椀も本堅地布着せの椀で揃える。泊り客の味噌汁用だ。皿、鉢類の瀬戸物は新しい物で気に入った物が案外町では見当らぬ。やはり古い伊万里のものを中心に揃えよう。民芸の島岡達三のものも加えよう。茶托は仙台の、昔買っておいた土産品のいいのがあるからあれにしよう。そば猪口には、鹿児島出来の琉球塗りの朱の茶托が合うからこれを使おう。銘々皿は鳴子の沢口氏の洗朱がかったのと、目はじきの中村富栄手塗りのにしよう。手盆は桑と欅の煎茶用のそれ、この小道具は新鮮な美しさをいまもってたたえているから……盛籠、パン籠。気に入ったものを宮崎珠太郎の作品から選ぶ。東南アジアものの編組や、佐渡や別府のものにはいいものがない。佐渡の竹籠の中ではこの苗龍がいい。農具なのだが屑籠に最適だ。灰皿は陶器にもガラスのものにも鉄器にもいい物がたくさんある。オリベッティ社の原型のプラスチックスの灰皿も使って見よう。(でもこれはすぐ汚れて使えなくなったので捨てた。)醤油さしは保谷のものでいいのを見つけた。塩胡椒入れとセットで揃えよう。ソース瓶とマヨネーズ容器にはまいった。未だにいいのが見つからない。あの使い捨てのポリ容器は私の主義に合わないので、絶対に卓上での使用を拒否する。(家庭でもそうしている)

会議室の椅子は天童のもの、豊口克平デザイン、この椅子なら徹夜の会議でもOKですといった客もいる。テーブルは秋木の剣持勇デザインのもの、事務用の机はイトーキ。同じく椅子はイトーキ、小畑広永デザイン。照明器具はナショナルとナンブ。冷蔵庫と扇風機はいいデザインのがなくて困った。機能としてはないと困るので、一応形のいいのを買ってきて、いらん飾り物を取り去って、共に黒の艶消しに塗り替えた。目立たないように……会議室秘書役の女の子がどうして黒く塗りつぶすのかといかぶるので、「必要だから使うけれど、デザインの悪いのを置いておくと私の商売に悪影響をおよぼすから、こうして黒く塗って目立たなくするんだ。」といったら、女の子が顔を手でおさえて、私は塗らないで下さいといった。その子は心根のいい、しかも美人であったから塗る必要はなかったのに…

ところで茶を呑む道具の中で一番苦労したのはマホウ瓶だ。いやな花柄のものばかりで、おまけにその容量が台所用には小さ過ぎ、卓上用には大き過ぎるのである。卓上用の小さいのは舶来ものを見つけた。スエーデンのハスクバーナー製である。大きさもスタイルもなかなかいい上に、瀬戸の急須とうまくマッチするからうれしい。台所用の大容量のものはついによいのが見当らないので、メーカーに直接たのんでステンレスをヘアラインに仕上げて造った。

泊り客用の和室の座卓は、木曾の平沢まででかけて求めたきた。座布団は出張のついでに松江の絵絣を求めたきた。客の多いときの食卓をあれこれ考えてみたが、宿屋の大広間の折りたたみ脚のテーブルも芸がないので、金沢の古道具屋で会席膳を揃いでととのえた。たまには会議に集まったメンバーと、一風呂浴びて、床に大あぐらをかいて、循環工学がどうのTECHNOLOGY-ASSESSMENTがどうだのとやらかすのもいいではないか。膳は揃ったが、茶碗も汁椀もいいのが揃ったが、まだ徳利のいいのが見当らぬ。

会議室の客に、茶と食事を出す道具あつめを以上のようにやってみて、私はずいぶん大きな収穫を上げたような気がする。箸や食器や容器を集めること、私の好みと私のイメージで、昔のものやいまのものをとり合わせてみること、いうなれば物と物の関係をデザインしてみること、物と物の関係をととのえて、お茶をのみ食事をするそのマナーを計画してみること、いうなれば生活設計。客に茶をすすめ、客にその道具達で食事を供し、生活提案をしてみること、等々。古道具や民芸品をIDものと取合わせて使ってみたこの実験は、後日この会議室で、デザイナーによる自主プロジェクトのテーマとなって発展することになるのである。

場は確保できたが……

さてこのようにして、まず最初に会議室という場が東京都内の交通の便利なところに確保できた。徹夜ででも話し合える場ができた。風呂にはいれて泊れて、うまい茶とうまい飯のくえる、みんなでデザインができそうな雰囲気がだんだんでき上って来た。

そしていま、この会議室では当節流行のプロジェクトチームによる、新製品開発会議や、各種の企画会議や、デザイン団体の会議や、研究会、そしてフリーデザイナーのサロンなどがにぎやかに行なわれているが、プロジェクトチームの作業内容や各種の企画会議の内容は公表できないので、サロンの会話のやりとりを、次のサロン日誌のぬき書きから読みとってもらうことで、いま、私のこの会議室で計画されているデザインの考え方や方法論、そしてデザイナーや産業人が、これからの問題としてとり交している意見の一部を想像してもらえたらと思う。

関連する記事
RELATED ARTICLES

記事の一覧へ