
ディアンドデパートメントは、「ロングライフデザイン」をテーマに掲げ、時代を超えて愛されるものや地域の文化を発信し続けているライフスタイルショップです。世田谷区九品仏にある東京店では、モノ・モノの木育プロジェクト「杉でつくる家具」をテーマにしたイベント「DIYのもののまわり」展が2026年8月1日(土)から9月8日(火)まで開催中です。
会期中の8月30日(日)には関連イベントとして、DIYの社会史を研究されている溝尻真也先生(明治学院大学・文学部芸術学科准教授)とモノ・モノ代表の菅村大全によるセミナー「わかりやすいDIY〜DIYの歴史に学ぶ、ロングライフな暮らし〜」が行われました。
「家庭工作」から「日曜大工」へ

セミナー前半は、溝尻真也先生によるDIYの歴史について。“Do it yourself”という言葉が意識的に使われたとされるアメリカの雑誌『Suburban Life』(1912年)の紹介にはじまり、日本の戦前の「家庭工作」、戦後の「日曜大工」、そして現代の「DIY」へと至る歴史的な変遷が紹介されました。
日本では、家具・建築デザイナーの木檜恕一(こぐれじょいち)さんが、戦前の大正終わりから昭和初期にかけて、主に教育現場で女性を対象にした「家庭工作」を生活技術として普及させました。
戦後の1950年代からは、日曜大工研究家の原稲生(はらいなお)さんの著書『日曜大工』(1957年)がベストセラーとなり、男性の余暇としての「日曜大工」が広まりました。
1970年代に入ると団塊世代に「日曜大工」が爆発的に浸透します。流行の仕掛け人は、漫画家で日本日曜大工クラブ理事長の松下紀久雄さん。メディアを巻き込みながら、“Do it yourself”という言葉を日本に浸透させ、団塊世代に向けてDIYブームを巻き起こしました。アメリカ型の「ホームセンター」が日本に登場したのもこの頃でした。
松下さんがDIYを懸命に推し進めた背景には、強い問題意識がありました。大量消費社会がもたらしたゴミ公害や経済不況を指摘し、DIYとは「使い捨て時代への反発」であると捉えていたのです。そして、自ら手を動かして作る楽しみこそが、便利になりすぎた生活の中で忘れ去られた人間性を呼び戻してくれると考えていました。
AI時代におけるDIYの可能性
セミナー後半は、「AI時代におけるDIYの可能性」というテーマで溝尻先生とモノ・モノの菅村による対談形式へと移ります。
菅村からは、2010年代以降、「DIY女子」や「ハンドメイド」という言葉が広まり、むしろ女性のほうが積極的にDIYを楽しんでいる傾向があること。さらにSNSの普及やハンドメイド専用フリマアプリの登場により、DIYが自己表現やビジネスとしても認知されるようになってきたという現状分析がなされました。
溝尻先生からは、DIYに対するユーザーの意識変化について指摘がありました。単に実用的なものを作ること以上に、作業中に「無心になれる」という精神的な価値が見出されるようになり、先生が行ったアンケート調査でも、デジタル社会において手を動かす時間がデジタルデトックスや癒しになっているという回答が、特に女性に多かったそうです。
議論の中で特に印象的だったのは、ハンディーワーク復権の兆しについてです。デスクワークがAIに代替されていく近未来においては、身体性を伴う仕事の価値が相対的に高まり、現にアメリカでは「ブルーカラー・ビリオネア」(現場で働く人たちが高い収入や大きな資産を築くこと)と呼ばれる層が台頭しているそうです。
秋岡芳夫が提唱する「愛用者」とDIYの共通点

セミナー終盤では、当社の菅村から、秋岡芳夫が掲げる「愛用」という概念について話がありました。
モノ・モノのスローガンにもなっている「消費者をやめて、愛用者になろう」という言葉。ここでいう愛用は、「気に入って買ったものを長く使うという一般的な意味も含まれるが、むしろDIYの考えに近い」といいます
世の中に物があふれる現代、私たちは当たり前のように既製品を購入し、それに自分を合わせて使っています。それに対して秋岡の言う愛用とは、欲しいものを自分で作ったり、買ったものでも気に入らないところあれば手直ししたり、あるいは作り手に直接オーダーメイドを依頼したりすること。ただ与えられたものを受け取る「消費者」にとどまらず、自分の暮らしを能動的に工夫していくユーザーを「愛用者」と呼んでいます。
コスパ、タイパといった効率性が重視される現代で愛用者になるのは簡単ではありませんが、愛用者に一歩近づくヒントとして、「手間パ」というキーワードが菅村から紹介されました。これはSNSで話題の料理家、長谷川あかりさんが考えた造語。手間パフォーマンスの悪い工程は省き、少しの手間で見違えるほどおいしくなる、手間パフォーマンスのよい工程を残すことで、自分が料理を作ったという充足感を大切にしよう、という意味が込められているそうです。
では、ディアンドデパートメントが掲げる「ロングライフデザイン」や「ロングライフな暮らし」と、愛用者やDIYといった概念は、どんな関係があるのでしょうか。秋岡芳夫風にいえば、真にロングライフな暮らしとは、ロングライフデザインをただ買うことではなく、ユーザーが絶えずロングライフデザインを追究していく姿の中にあるのではないか――。そんな菅村からのメッセージでセミナーは締めくくられました。
ディアンドデパートメント東京では、2026年9月8日(火)まで企画展「DIYのもののまわり」を開催中です。会場では「杉でつくる家具」の原点となった書籍『アイディアを生かした家庭の工作』(1953年)の貴重な資料や家具完成品の展示、組み立てキットの販売が行われています。ぜひご来場ください。

(モノ・モノ編集部)
関連書籍の紹介
増補新版『杉でつくる家具』
グラフィック社|単行本|2025
1953年に発行された『アイディアを生かした家庭の工作』から木製家具をピックアップし、現代の視点でリメイクしたDIY書籍です。図面作成を手がけたのは、KAKデザイングループの工業デザイナーたち(秋岡芳夫・河潤之介・金子至)。ホームセンターも電動工具もなかった時代のノコギリと建築材(貫板やベニヤ板)を駆使した、ミニマルで機能的なDIY家具21作品の作り方や図面が収録されています。
こちらの本はオンラインショップでご購入できます。
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