お知らせ

2017.03

4月22日(土)|「秋岡芳夫のDIYデザイン」トークイベント開催のお知らせ

秋岡芳夫らが1953年に出版した、日曜大工の入門書、『アイディアを生かした家庭の工作』をテーマにしたトークイベントを、4月22日(土)14時からモノ・モノで開催します。

生活が貧しかった1950年代、デザイナーは何をなすべきか。秋岡芳夫が考えたのは製品をデザインすることではなく、すぐれたDIYデザインを庶民に提供し、少ない材料と予算で暮らしを豊かにすることでした。

ゲストスピーカーは建築家の伊藤暁さん。2011年に目黒区美術館で開催された秋岡芳夫展で『家庭の工作』の存在を知り、その完成度の高さに驚嘆。本業のかたわら秋岡芳夫のDIY家具を自作・研究されています。また、エンツォ・マーリが1974年に出版した日曜大工の書先、“autoprogettazione?”に掲載された家具も並行して制作され、両者の作品を対比されています。

会場には、貴重な『家庭の工作』の実物、伊藤さんが同書の図面を参考に製作した椅子、50年代当時にKAK(秋岡芳夫、金子至、河潤之介の3人で結成されたデザイン事務所)によって実際に製作された家具も展示する予定です。

『家庭の工作』とは…  

KAK結成3か月後に出版されたこの本は、タイトルのとおり、身の回りにあると便利な日用品を、木を主な素材として少ない道具で楽しく作ることを基本に考案された。「針金からコップによる花さし」から「応接セット」まで、50数点の実作の写真とその制作、図面、工程、工具の使用法などが紹介されている。総128ページにもなるこの内容は、初心者にも配慮されている。河、金子、秋岡、の3人はインダストリアルデザイナーでありながら、高度な木工技術を全員が持っているクラフトマンでもあることからも、この本の手作りな校正がよく理解できる。解説は金子至、挿絵は河潤之介が担当、撮影には秋岡家の室内が多く登場する。翌年には『婦人朝日』にもこうしたやさしい家庭工作が連載されたり、テレビ出演にも続き、「KAK家庭工作時代」として、新しい暮らしを提案していく。(『DOMA秋岡芳夫−モノへの思想と関係のデザイン』より)

家庭の工作表紙kak

講師からのメッセージ

(目黒区美術館・秋岡芳夫全集4・ミュージアムシートより抜粋)

 ところで『家庭の工作』を見て思い出したのだが、イタリア人工業デザイナーであるエンツォ・マーリ(1932年~)による“autoprogettazione?”がある。これも、ありふれた材料で椅子やテーブルを製作するというもので、これまたとてもきちんとデザインされたD.I.Y.向けの家具が図面とともに載っていて、驚くほど「家庭の工作」との類似点が多い。エンツォ・マーリはダネーゼやドリアなど、ハイエンドな家具メーカーから洗練されたプロダクトを世に出すデザイナーで、その仕事を見る限りではD.I.Y.とは縁遠い存在に見えるのだが、その彼もまた「家庭の工作」と同じような書籍を世に出しているのだ。

『家庭の工作』が1953年なのに対して“autoprogettazione?”は1974年で、時期的には20年ほどのズレがあるが、この時間を超えて両者がここまで類似した要因とはいったい何なのだろうか。エンツォ・マーリが“autoprogettazione?”を出版した経緯として語られるのは、当時のイタリアが深刻な経済危機状態にあり、ハイエンドなプロダクトが社会で流通するような状況では全くなかった、という時代状況である。自らのデザインしたプロダクトと社会の乖離に直面したことが、エンツォ・マーリに自身の仕事を振り返るきっかけとなったであろうことは想像に難くない。お金をかけなくても、ハイブランドでなくても、きちんとデザインされたプロダクトを人々に届けたい、というデザイナーとしての根源的な欲求のようなものが大きなモチベーションになっていたのではないだろうか。そこには「デザインが生活の質を改善できる」という強い信念が感じられる。

 片や高度経済成長に突き進む好況の日本、一方で大不況のイタリア。正反対な経済状況ではあるが、両者に共通するのは、上向きにせよ下向きにせよ、経済が極端な状態になると、モノと社会の関係から「暮らし」が剥奪され、人間が疎外されてしまうという問題意識だといえるのではないか。秋岡芳夫も、エンツォ・マーリも、単なるモノをデザインしていたのではなく、それによってもたらされる生活の質、暮らしの風景、流れる時間をデザインすることに取り組んでいたデザイナーである。だからこそ、自身の仕事と生活の間に切断を感じ取った時、なんとかそこに人間を介在させようと考えた結果が「自分で作る」ためのデザインだったのではないだろうか。

講師プロフィール 

伊藤暁さん

伊藤暁(いとう・さとる) 建築家
1976年東京都生まれ。一級建築士。横浜国立大学大学院修了後、aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所に勤務。2007年に伊藤暁建築設計事務所を設立。木造建築を得意とし、2010年より徳島県神山町の地域活性プロジェクトに関わる。東洋大学非常勤講師。
伊藤暁建築設計事務所のホームページ

開催日

4月22日(土) 14:00〜16:00

定員

20名(先着順)

参加費

1500円(税込)

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