白木の器作り・その6「木地カンナの作り方」

秋岡芳夫の盟友、時松辰夫(アトリエときデザイン研究所代表)に師事した木工家・有城利博さんが、木の器の作り方をレクチャーする連載企画。今回は木工ろくろで使う刃物「木地カンナ」の鍛造方法について解説していただいています。

文: 有城利博(木工家・ありしろ道具店代表)

こんにちは。ありしろ道具店の有城利博です。

昨年に引き続き、白木の器づくりのノウハウを書かせていただきます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

年末は工房恒例の餅つきで仕事を無事に納めることができました。ひとつひとつの木工機械に鏡餅をお供えして、2年前からは地域の方に教えていただきながらお飾りも自分で作っています。季節の仕事を少しずつでも整えていきたいですね。

木工機械に鏡餅をお供え

さて、年明け早々に木工ろくろで使う刃物、通称「木地カンナ」を作ることにしました。刃物が折れたり、研いで刃先が小さくなったりした時には自分で作り直します。この仕事を鍛造(たんぞう)と言い、その名の通り、鋼の棒を叩いて鍛えて作ります。そのため工房の一角の鍛造部屋には、丸太とタイヤのホイール、耐火レンガ、ドライヤーという身近な材料でできた炉があります。炭を燃やし、ドライヤーで風を送り炉の温度を上げる仕組みです。

炉

鍛造部屋には師匠である時松辰夫先生のメモ書きがここにも貼られています。この1枚で木地カンナ作りの大体のポイントを確認することができます。時松先生の木地カンナの大きな特徴は、基本的にかんなの形が1種類だけだということです。いろいろな木地産地を歩き回って研究した形だと聞きました。これは、くり返し練習すれば誰でも、ろくろ仕事ができるようにという時松先生の強い思いを感じることができます。

時松辰夫先生のメモ書き

炉に入れた刃先の色で温度を確認しながら、ハンマーで叩いていきます。叩いて思い通りの形にするということは至難の技です。しかし、叩いて鍛えるのを怠り、グラインダーで削って形をごまかしたりすると、刃がすぐ折れたり欠けたりするので、気を抜くことはできません。

鍛造1

刃先を適切な形・厚みに整えたら、特に慎重さを要する刃先を曲げる工程です。大きいハンマー、小さいハンマーを使い分け少しずつ曲げていきます。十分に熱していないと全く曲がりませんし、無理に曲げようとすると折れてしまうこともあります。

鍛造2

今回は一度に3本の木地カンナを作りました。下写真右端の刃物は時松先生が作ったカンナです。比べてみると私のカンナは刃先の曲がり方や反りなどまだまだ未熟ですね。曲がり方や反りが木地かんなの使いやすさを左右するのです。それになんといっても時松先生のものは道具として美しいですね。ろくろ仕事は木地カンナの切れ味で質も量も全く違ってきます。よりよい仕事をするためにかんな作りも精進していきます。さて、木地カンナも用意できました。後回しになっている丸太の半割を進め、いよいよ器の荒削り工程の解説もしていきたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

鋳造した木地カンナ

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