「女の椅子・生活で測って創ろう」後編

モノ・モノ創設者の秋岡芳夫は、暮らしや木工に関する多数の著作を残しています。本コーナーでは秋岡氏の本の中から、現代に通じる提言や言葉を掘り起こし、紹介しています。このエッセーでは身度尺(身体サイズにあわせてモノを作ること)の考え方を基準に、女性が使う椅子について考察されています。 前編はこちら

女の椅子

食事のときの椅子はどこの家のも同じ形、同じ寸法だが、めいめいの椅子を持寄って食事をしたら、団欒になる。囲炉裏端のめしどきのようになる。肘のある椅子、ない椅子。広くてあぐらのかける椅子。ちんまりと横坐りしてさまになる椅子をめいめいに持寄って食事をしたらどうかしら。でも座の高さだけは揃えておかないと、テーブルの上に顔しか出なかったり膝がつかえたりしてさわぎになる。男が坐っても、女が坐っても具合よく食事のできる椅子の高さはないものか。理屈で考えるとあり得ない。人間工学でも割り出せない。身長のほぼ四分の一が椅子の座の高さの適寸だからだ。計算ずくだとノッポの椅子は高くなり、チビの椅子は低くなる。椅子の席の高低がまちまちだと一つのテーブルは囲めない。

実際的に高さ三六センチの、女むきと思われる寸法の椅子を実際に十数年使いつづけて見た。計算上では身長一四〇〜一五〇センチの人間にしか合わぬ筈のこの低い椅子に、身長一七〇のぼくも数年坐りつづけて見たんだが、なかなかいける。坐り心地も悪くない。三六センチと言えば一尺二寸だ。和室の肘かけ窓の高さだ。子供の頃、窓に腰掛けて遠くの花火を見た覚えのあるあの窓の高さだ。夏、風呂上がりの母が浴衣がけで腰掛けて涼んでいたあの窓の高さだ。雨の日に凭れて庭を眺めたことのある窓高だ。三六センチの椅子は日本人の身体に合う椅子高だ。子供もけっこう腰掛けられる高さだった。みんなが坐りやすい椅子はたぶん三五〜三八センチだろう。

座の高さは揃えても、座の幅や奥行はめいめいに変えるのがいい。奥行の目安は子供で三六、女で四〇、男で四五センチにすると、それぞれの身体に合う。座幅は好みだが、ぼくなら六〇センチにする。上であぐらをかくつもりだから。背凭れを脇の下にかかえこむようにして椅子に横から坐るのが好きな娘は、座幅を四五にするといい。子供も坐らせるつもりの小ぶりの椅子なら、座幅は三六もあれば十分。 背凭れの座からの高さは好みでめいめいでいいと思うが、ぼくなら、横坐りして腕を背凭れにかけることしばしばだから三六にする。ハイバック好きにひとこと忠告。あれは居眠りをするにはいいんだが、夏、暑くるしい。

女の椅子の背も男の背も、凭れと座の間はすかせて置いた方がいい。夏、風が通って涼しい。二〇センチほど開けておくと、横から坐ったときに凭れと座の隙間に脚が入るから掛けやすい。三つか四つ横にならべてゴロリと寝るつもりなら、肘はない方がいいんだが、部屋の中に一つ二つなら片肘の椅子が置いてあってもいいだろう。

年寄りの椅子には是非肘を。椅子の肘はローマの頃、足腰の弱い年寄りのために工夫してつけ加えられたものだと家具の歴史にある。座は、どちらかと言えば、硬めの方が疲れない。畳に座布団を敷いたぐらいを硬さの目安にしたらどうか。肌に馴染むと思う。シートを置き、クッション式にして、夏冬に取替えたら、日本の風土むきの椅子になる。クッションを、芯に硬い板を入れた作りにして裏表で硬さを変え、夏は硬い方に坐ったら、きっとさっぱりする。夏の布地は涼しげな麻が、冬のはあたたかなウールがいいだろう。狭い家の中にぼくらは居間用と食事用の二種類の椅子を置いている。リビング用とダイニング用とを兼用にすれば、家は広々と使える。

お客さま用の上等の椅子とふだん用のお粗末なのを二種類持ちたがる。「これうちの自慢の椅子よ」そう言える椅子を一つもてばいい。二種類の椅子を使いわけるんなら、素足用と土足用だろう。女の椅子と男の椅子だろう。素足むきの椅子、女の椅子、男のあぐら椅子は注文でないと手に入るまい。高くつくのを覚悟でメーカーに頼んでみることだ。木の椅子なら一品製作が可能である。家庭でも靴を履いているよその国の椅子をなんぼ上手にコピーしても日本人の椅子にはならない。日本人の椅子は日本人の「生活」で測って創るべきだ。

前編はこちら

出典元・著作の紹介

暮しのリ・デザイン

暮しのリ・デザイン

玉川大学出版部 | 単行本 | 1980

これまで取り上げてきた道具や話題を生活という尺度で測り直すと、また別の物語や提案が出てくるのが秋岡芳夫の発想のすごさだ。「国鉄が捨てたD51型蒸気機関車(愛称:デゴイチ)を拾って、薪を焚いてロクロや帯鋸じゃんじゃん回して木工やって、過疎の地の村おこしやろう」という提案にはじまって、話題はエネルギー問題から包丁の柄のデザインまで縦横無尽に広がる。裏作工芸の発想もこのあたりからはじまった。
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